チリオモ/学パロ/ポケモンはいる/notパルデア/タイトル未定12/つづくといいな


 深夜となっていた。焼け焦げた臭い。破壊された教会に似合わぬ、ポケモンバトルの振動。チリはオモダカの手を取り、走る。オモダカはその目を白黒とさせながら、走る。
「チリさん! 私は!」
「黙っとき!」
 時は、満月の夜だった。森から、地を這うものたちが現れる。チリは夜毎に見た、行進だ。蝶々の婦人がチリの前で、そっと顔を上げる。それは、オモダカと同じ顔をしていた。
 正に宇宙の煌めき!
 蝶々の婦人がそっと笑う。チリには分かる。このままでは、婦人はまた壊されてしまう。ならば、どうすればいい? どうすれば、この悲劇を止められる?
 どうして、彼女は死亡する?
 天から声が降ってくる、その振動が肌を這いずり回る。何より、今宵は"満月"の夜だった。
「っ、ゲアラハ! あなたは妖精の女王! 月そのもの!」

──祝福を、祝福を。あなた達と出会えた祝福を。宝石(いし)はあなた達だった。宇宙そのものを閉じ込めた世界の因子。ゲアラハが"こい"焦がれた、本物。

「私、此処に残ります」
「っはあ?!」
 チリが声をひっくり返した。オモダカは強い意志で告げる。
「私、ゲアラハなんです。この世界において彼女と同じ存在であり、宇宙そのものですから」
「でも!」
「チリさんはこの世界の人じゃない」
「それは、」
「あの、チリさんはほんとうにすきなひとが居るんですよね」
 突然の言葉に、チリは何も言えなかった。息を飲む。オモダカは続ける。
「私、分かったんです。私と良く似た人で、私よりずっと俗世じみた人。きっとバトルが好きなんじゃないかしらって」
 なんで。どうして。
「チリさん。ゆめから覚めたら真っ先にその人に言ってほしいんです」
「なにを?」
「すきですってちゃんと言わなきゃ、きっと、私なら分からないので」
「すき?」
「世界で一番好きだって、ちゃんと言ってくださいね」
「……分かった」
「良かった」
 ではゲアラハ、行きましょう。
 チリが固く結んだ手から、するりとオモダカは抜け出した。
「さようなら、チリさん」
 花のような少女だった。ゆめのなかの、少女だった。
 強い香りを放つ薔薇の花には棘がある。その棘が、チリの胸に刺さった気がした。
「さよなら、オモダカさん」
 そうして、チリの意識が霞む。まどろみの中に、目を閉じた。

 チリが消えた。世界に残ったのは銀の鍵。オモダカが拾う。そして、そっと満月に透かすように掲げてみる。キラキラと、小さなダイヤモンドとパールが輝いていた。

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