チリオモ/学パロ/ポケモンはいる/notパルデア/タイトル未定10/つづくといいな


 早朝。チリがゆるゆると目を開くと、オモダカがすっかり制服を着ていた。
「休日とちゃうの」
 チリが何とか頭を回して言えば、オモダカはおはようございますと苦笑した。
「これ以外に服を持ち込んでいなくて」
「さよか」
「チリさんは私服がありますか?」
「無いわ。制服でええやろ」
「同じですね」
 朝食は何にしましょう。オモダカの言葉に、チリはそれならと起き上がった。
 シリアルに紅茶にチョコレートバー。まだあったのですねとオモダカが微笑む。チリはそう簡単に無くならんよと言った。
 キラフロルがすりすりとオモダカにすり寄る。それを落ち着かせながら、オモダカは言う。
「ポケモンたちのフーズはこの後ですね」
「そうしよか。皆、腹減っとるやろ」
「はい。きっとそうです」
 シリアルは喉に引っかかる。だが、オモダカがポケモンたちのお世話の後に散歩をしましょうと楽しそうに言うので、チリは何でも良くなった。
 朝食を食べ終えると後片付けをしてから、ポケモン達の朝飯の用意をする。今日は、それぞれに最も適した皿やフーズを調整した。ドオーに、少し太ってへんかと言うとべしんと叩かれてしまった。
 ポケモン達をボールに戻し、部屋を出る。薄暗い廊下に小さなステンドグラスたちからカラフルな光が落ちてくる。がちゃんと部屋の鍵を閉めて、合鍵の確認をしてから、廊下を進んだ。すれ違う先輩や同級生に挨拶しながら、寮を出る。明るい青空が広がっていた。
「どこに行きましょう?」
「どこでもええよ」
 それならと、オモダカは提案した。
「薔薇園に行きませんか?」
「薔薇園?」
「はい。私たちが出会ったあの場所に」
 私、もう一度あそこに行きたかったんです。無邪気に笑うオモダカに、チリはただ、好きなところに行けばいいことを告げた。
 並んで歩く。オモダカは歌い出しそうなほどに楽しそうだ。空は青く、風はない。だが、ふわりと花の香りがした。これは、薔薇だ。真紅の薔薇の匂いだった。
 薔薇園にはあっという間に着いた。入り口から既に赤い薔薇が見える。高い植木の全てが棘のある薔薇たちだった。赤い薔薇ばかりで、他の色は見当たらない。何故、赤なのだろう。チリは疑問を感じた。だって、白だって、黄色だって、あるんじゃないか。
「チリさん、向こうですよ」
「へ?」
「私たちはあそこで出会いました」
 ほら、とチリの腕に腕を絡めて、オモダカが駆け出す。チリは転ばないようについていく。青銅のベンチに、オモダカがとんと座る。チリはその前に立った。
「ここで、私はキラフロルを落ち着かせていたんです」
「何でキラフロルは落ち着かなかったん」
「さあ、どうしてでしょう。ただ、私が入学式から飛び出したのを心配してくれていたのかも」
「そんな事やったな」
「チリさんこそ、どうして私と薔薇園で出会ったんです?」
「入学式が嫌やったんよ」
「同じですね」
「そうやな」
 ふふとオモダカは嬉しそうに笑う。薔薇の香りが鼻をおかしくする。赤い薔薇が、どうして赤いのか。棘がある。全てに棘があって、刺されば、赤い血が。
「どこかの国では赤薔薇と白薔薇の戦争があったそうです」
「は、」
 オモダカが薔薇の花に指を伸ばした。
「結局、どちらが勝ったのか。それは私には関係ありません」
「せやろな」
 振り返る。オモダカの髪がキラキラと輝いていた。
「でも、赤薔薇も白薔薇も、どちらもとても美しいとは思いませんか?」
 私は、ですよ。
「赤い薔薇はこんなに綺麗。白い薔薇も、きっと、とても美しいのでしょう」
 そんなものは、見に行けば良いじゃないか。チリが言おうとすると、オモダカのスマホが鳴った。
 すみませんと、オモダカがスマホを手にする。そして、あらと首を傾げた。
「このあと、お仕事があるそうです」
「風紀委員会か?」
「はい。そうみたいです。チリさんは先に帰っていてください」
「まだ時間あるやろ。昼飯食べなあかん」
「はい」
 サンドウィッチですかね。オモダカの言葉に、クレープでもええよとチリは言った。

- ナノ -