チリオモ/学パロ/ポケモンはいる/notパルデア/タイトル未定4/つづくといいな


 どうやって眠ったのだろう。チリは早朝に目覚めた。オモダカはすっかり制服に身を包み、黒い手袋のカフスを留めていた。
「チリさん、おはようございます」
「あー、おはようさん。お嬢さん早いなあ」
「早寝早起きには自信があります」
「せやろなあ」
 チリはううむと唸りながら、朝の身支度を済ませた。朝食はシリアルと紅茶。ポケモンたちにはフーズだ。
「昼食は大食堂で取ってみませんか」
「ええよ」
「クラス、同じでしょうか」
「分からんなあ」
「チリさん起きてますか」
「んー、起きとる」
「半分寝てますよ」
「そないなことない」
「キラフロル」
「やめやめ、何するつもりやアホ」
「テラバーストで目覚めるかと」
「人間にわざ使うたらアカン」
「確かにそうですね」
 ふふと笑うオモダカに、肝が冷えたとチリはシリアルをかき込んだ。

 部屋を出て、薄暗い廊下に出る。鍵をしっかりと閉めて、ステンドグラスの小窓からの朝日を頼りに歩いた。早い時間だからか、ひと気がなかった。暗い屋敷ほど、怖いものはない。だが、チリは別に怖がりではなかったし、オモダカも平気そうだった。
 それにしても、制服のスカートがひらひらと邪魔だった。
 館の外に出ると、生徒会と委員長たちの実行委員によって、教室に案内される。シロナは目が合うとにこりと笑ってくれたが、どうにも食えない人だとチリは隣で微笑むオモダカの手に手を絡めた。
 クラスは一年一組。チリもオモダカも同じクラスだった。
 席は自由らしい。適当に窓側に座ると、後ろの席から声がした。
「アナタたち、どこから来たの」
「ちょ、カトレアさん?!」
 長く、ふわふわとした金髪の少女。そして、丸眼鏡の少女。どちらもスカートの制服を纏っていた。胸には薔薇の花がある。同じ新入生だ。
「ええと、私はオモダカです」
「うちはチリや」
「えっと、わたしはシキミです。こちらはカトレアさんです」
「よろしくね」
「失礼ですが、カトレアさんは、あのカトレアさんですか?」
「何、その聞き方」
「わー! カトレアさん落ち着いてくださあい!」
 慌てるシキミに、カトレアは怒ってないわと言った。オモダカは失礼しましたと頭を下げる。
「超能力の一族とお見受けします」
「ええ、合ってるわ」
 カトレアは満足そうに笑う。シキミはさっと顔を青ざめて、声をかける。チリが首を傾げた。
「超能力の一族って何なん?」
「あら、ご存知無いのね」
「普通は知りませんよ」
「わ、わたしもカトレアさんから聞くまで知りませんでしたよ」
「まあ、そうね。そのままだけれど。単に超能力を持ってる一族よ」
「カトレアさんは超能力が強すぎて社交界に出てこれなかったとお聞きしています」
「完璧ね。今でも学園の外には出ないように言われてるわ」
「何や、どういうことなん?」
「えっと、チリさんはエスパータイプの使い手と会ったことがありますか?」
「無いわ」
「でしたら、分からなくても仕方がないかと。エスパータイプの使い手は大抵が超能力を保有します。もちろん、超能力を持たない方もいますが。カトレアさんは超能力が強すぎるので、家族から行動制限を受けているんです」
「はあ?」
 チリが言うと、知らないなら幸せなことよとカトレアは締めくくり、少し寝るわと目を閉じた。シキミは苦笑し、悪い人ではありませんのでと言った。その時になって、担任の教師が教室に入って来たのだった。

 説明会を受けて、自由行動となる。オモダカが風紀委員会に行きたいと言ったので、チリはどうしたものかと考えあぐねた。風紀委員会には少しも興味がない。しかし、生徒は何らかの委員会や部活動に所属する決まりがあった。ウンウン唸っていると、カトレアがチリの腕を掴んだ。
「え、カトレアさん?」
「カトレアさん、どうかされたのですか?」
「アナタ、風紀委員会に行くんでしょう。シキミは図書委員会に行くの」
「は、はい!」
「では途中まで一緒に行きますか?」
「ぜ、是非っ」
「ちょ、うちは」
「アナタはこっち」
 オモダカが不安そうにチリを見ている。だが、チリも何が何だか分からない。シキミだけはカトレアさんなら大丈夫ですと安心していた。
 カトレアがひらひらと歩く。地に足がついてないような歩き方だった。
「ちょお、カトレアさん、どこ行くん?」
「委員会に所属しないんでしょう」
「まあ、そのつもりは無いけどなあ」
「アナタ、知ってる人でしょう」
 廊下を歩く。校舎を出る。委員会棟と部活棟を過ぎる。どんどんひと気が無くなっていく。どこに連れて行かれるのか。チリが不安になるが、カトレアは止まらない。淀みなく、どこかへ向かっている。
 旧部活棟。その最奥。白銀の扉があった。
「鍵」
「え?」
「アナタ、鍵を持ってるでしょう」
「あ、これ?」
 制服の中から鍵を出す。鍵は、よく見ると十字をしており、持ち手には小さな透明な宝石と白い真珠が飾られていた。
「使って」
「まあ、ええか」
 鍵を差し込む。ガチャン、と大きな音が響いた。明らかに、噛み合わない、音だった。
「開くわ」
「えっ」
 白銀の扉がひとりでに開く。数センチメートル開くと、止まった。その扉をチリがさらに開く。

 温室、だろうか。太陽光が燦々と射し込む。朽ちた煉瓦の小道は苔むしている。手入れされていない植物達が、好き勝手に花を咲かしている。カトレアが進む。チリが慌てて扉を閉めて進んだ。
 二人で並んで進むと、温室の中央に出た。錆びた金属の仕切り。だが、よく見覚えのあるもの。
「これって、バトルコート?」
「そうね」
 カトレアが微笑んだ。
「アナタは此処に来るべくして"此処"に来た」
「は?」
「そう、アナタが、"鍵"を持っていた」
「えっと」
「アナタが、"光"を見たから、"扉"は現れた」
「何言うとるん?」
 同好会を設立しましょう。カトレアは笑っている。
「バトル同好会。どう?」
「バトル、なら」
 ポケモンバトルなら、何だか興味を持てそうだった。

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