チリオモ/春/タイムマシンは使ってないです。ただ、春、の幻影をみただけの話/連動する要素があったので、存在自体はなんかこう、繋がってるのかなと、思いました。


 未だ、春を求めてる。

 雪解け水が流れている。オモダカが歩いている。チリはその後ろにいる。警戒していると、落ち着いてくださいと言われた。
「怖いものではありません」
「いや、何もわからんやろ」
「少し、ポケモンたちが遊んでいるだけです」
「ほーお、これがポケモンたちの仕業やと?」
「不思議な生き物ですから」
 ひゅう、ふろろん。笛の音がする。誰かが笛を吹いている。誰が?
 瞬間、四つ足の生き物が目の前を駆け抜ける。大きなツノを持つそれは、白い毛をぶわりと靡かせて、少女の元に向かった。少女が笛を吹いていたのだ。おや、と黒髪の彼女が振り返る。
 やけに大人びている。最初の印象だった。
「見慣れない人らだね、どこの人だい?」
「パルデアですね」
「ぱるであ? ふうん。まあ、世界は広いらしいからね、そういうところもあるか」
 何より、と彼女は笑った。
「アヤシシ様が連れてきたんだ。悪い人ではないだろうね」
「その個体は、アヤシシ様、というのですか」
「そうだよ。見た事ないだろう。集落の人間でも、なかなか見ない。外から来たならもっとだ」
 少女はアヤシシを見上げて頷くと、笛を構えた。チリが眉を寄せた。
「何をするつもりや」
「落ち着いてください」
「ふふ、大丈夫だよ。悪いことはしない。アヤシシ様に頼むだけさ」
「はあ?」
 チリが声を上げると、少女が笛を吹いた。ひゅう、ふろろん。聞いたことのない音色だった。その音に応えるようにアヤシシが雄叫びを上げて、コツコツとオモダカに近寄る。チリが前に出ると、オモダカが大丈夫そうですと言った。
「背中に乗るのですね」
「何で意思疎通しとるん?」
「ゴーゴートと同じ要領かと思いまして」
 よっとオモダカがアヤシシの背中に乗る。慣れた動作に呆れつつ、チリはオモダカの後ろに、乗った。本当に"おてんば"なお嬢さんだ。
「じゃあね、旅人さんたち。アヤシシ様、お願いします」
「さようなら」
「はあ、さいなら」
 アヤシシが駆け出す。土地を渡る、時を渡る、空間を渡る、狭間を渡る。色々な景色があった。
 そんな信じられないような巡りの中で、ひとつだけ、確かなことがある。オモダカの背が温かかったことだった。

 エリアゼロの心臓部にいた。アヤシシは消えている。ふむ、とオモダカは頷く。
「あまり足を踏み入れるべきではないですね」
「今更かいな」
 ああ、チリちゃん疲れたわあ。そんな声に、オモダカは外に出ましょうかと笑った。

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