チリオモ/強制帰宅令/2022年の書き納めになります。大変お世話になりました。来年もよろしくお願いします。


 年越し。
「年末の仕事が終わりましたね」
「総大将は流石やな……チリちゃんはまだ残っとる」
「あ、もう全員休みにさせるので」
「うわー絶対やると思ったわ」
「上が休みを取らないと、休まらないのでしょう?」
「それはそうやね」
 では皆さん年明けにまた会いましょう。にっこりと笑ったオモダカがフロアの電気を消した。四方八方からぎゃあとかうわあとかと悲鳴が上がる。ああ、データが消えたな。チリは沈黙した画面にうつる自分の姿が、やつれているのが分かった。
 オモダカの強制帰宅令でぞろぞろとリーグ職員たちが帰路につく。オモダカが出入り口で一人一人を確認しては気をつけて帰ってくださいねと微笑みかける。チリは仕事を持ち帰る人間たちと、それに付き合うポケモンたちを急かした。チリ自身もドオーの背中に専用のリュックを付けさせてもらった。紙面のデータと向き合う日々が始まる。

 久々に自宅に帰るべきか。チリはううむと眉を寄せる。オモダカは全員が帰るのを確認するまで帰らない。それはチリも例外ではないし、そもそも、オモダカだって冬季休暇は家族と過ごすべきだと思ったりするのではないか。
 まあ、チリちゃんにとってはオモダカとポケモンたちが家族なのだが。
「チリ、どこに帰るのですか?」
「お、ええとこに。総大将はどの家に帰るん?」
「私はチャンプルタウンの家に帰ります」
「本宅とちゃうの?」
「両親とはすでに挨拶を済ませてます」
「あっそう」
「ところでドオーのリュックはお手製ですか」
「せやで。泥で濡れんように防水製や」
「チリは器用ですね」
「これぐらいなら誰でも作れるわ」
 ああ、そうではない。
「チリちゃんも帰ってええ?」
「勿論」
 そりゃあ良い。チリはニッと笑った。

 夜のチャンプルタウン。宝食堂の前を通り、ビルの一つに入る。フロアのひとつがオモダカの家だ。
 家に入り、とりあえずチリが使っている机に様々な書類を積む。ついでに道中で買った食品を保存庫に仕舞う。具沢山のスープとパンでいいか。チリは様々な具材を出して、鍋に入れていく。
 パンを温めていると、オモダカが帰ってくる。
 ぼふんとソファに座って脱力するオモダカに、お疲れさんとチリは声をかけた。
「ええ、チリの仕事は片付きそうですか?」
「今月中に終わるわ」
「それなら良かったです。ポケモンの世話は引き受けます」
「頼むわ。料理は任しとき」
「そっちは出来ないので頼みます」
「出来ないわけないやろ」
「得意ではないんです。あと、チリのごはんは美味しいです」
「そら良かったわ」
 オモダカが、近寄ってきたドオーを撫でる。体調は良さそうですねと、笑顔になった。何も飾らないその顔が見えるのは今はチリだけの特別であってほしい。そう願いながら、チリはパンを温め始めた。

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