チリオモ/ドライトマトのカプレーゼ


 土地柄だろうか。オモダカは朝が弱い。チリは朝食をすっかり作り終えてから、寝室に向かった。
「起きとるー?」
 返事はない。仕方ないかとチリは寝室に入る。暗い部屋を進み、中庭に面した窓のカーテンをシャッと開いた。オモダカがシーツの海で、うむうと、ぐずった。それを見て、チリは優越感に胸が満たされる気がした。しかし、優越感を感じている場合ではない。
「ほら、起きてや。チリちゃん特製朝飯作ったで」
「ドライトマトは?」
「あんさん本当にトマト好きやね。用意しといたわ」
「ストック、なかったでしょう」
 頭の回ってないオモダカの言葉に、チリは彼女の髪を手早く整えながら言った。
「早朝から市場は開いてんねん」
「なるほど……」
「ほら起きた起きた」
「んむう、頭に響きます……」
「寝酒でもしたん?」
「してません……」
「せやろな。ただの過労や。しっかり栄養摂るでーっとほら」
「わあっ」
 ひょいと抱き上げたオモダカから、悲鳴が上がる。チリは、ちゃんと鍛えとるから安心しと笑うだけだ。ふわふわとした白いルームウェアのオモダカをダイニングの椅子に座らせる。温かいオートミールに、ドライトマトとチーズのカプレーゼ。すっかりチリとオモダカの冬の定番だ。
「本当に、朝はチリに任せきりですね」
「別に構わへんよ」
「そうですか? チリが良いならいいのですが」
「忙しい総大将がゆっくり食べれる時間は"こんな"朝ぐらいやし」
 二人で夜更かしをした朝だ。オモダカはムッと眉を寄せたものの、すぐにオートミールをスプーンで口元に運んだ。チリはオートミールにあまいミツをかけていた。意外と甘いものが好きですよね。オモダカが言うので、チリは意外でも何でもないやろと返事をした。
「しっかり食べて、ぎょーさん働かんと」
「書類たまってますよね」
「トップの机に渦高く」
「頭が痛くなりそうです」
「何時に帰れるか分からんな……」
「溜め込んだのは私なので、責任もって処理します」
「ほぼサインだけで済むやつなんやけど、役職掛け持ちしとるからなあ」
「出来ることをしたまでなのですが」
「どれも業務が膨らんできとるやろ」
「ある程度、他の方に任せるべきでしょうか」
「もう決めとるくせに」
「ふふ。はい、少しは目処がついてるんです」
 手は抜きたくなくて。オモダカの微笑みに、チリは仕事人間やなあとしみじみ言った。オモダカの評価は厳しい。その心眼に適った人間は、オモダカ自身が出向いて、最も適した役職を与えるのだ。チリも、ハッサクも、ポピーも、アオキだってそうだった。
「ま、チリちゃんは総大将の元でしっかり働かせてもらうさかい、気張りぃや」
「まあ、なんて怖い」
「心にもあらへんことを」
 チリの苦笑に、オモダカは笑みを深くして、ポケモンたちの朝ごはんはこの後ですねとスケジュールを確認したのだった。

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