チリオモ/UB/いつにも増してチリさんの言葉がふわふわです。薄めで読んでください……。うっかりテッカグヤさんがいます。タイムマシンつまり時空移動となるとどうしてもUBを思い出すのです。SMとUSUMを知らない方はぜひ遊んでみてください。


 オモダカがゴーゴートに乗る。チリは差し出された手を取る。ぐいっと引っ張られる。浮遊感が少し。ゴーゴートに乗っていた。
「少し、急ぎますよ」
「了解」
 さらりと、オモダカがゴーゴートのツノを撫でる。ハッサクが一歩下がる。気をつけて。彼はそうとしか言わない。
「小生は後から追いかけます故」
「頼みました」
「チリちゃんがサポートしとくわ」
「頼みましたGPS」
「うっさいわ。ハッサクさん偶にお茶目やな」
「連絡は全てチリに。では」
「はい」
 ぐんっとゴーゴートが走り出す。揺れが強い。ごっとんごっとんがらがら。岩山を駆けて越えていく。チリはぎゅっとオモダカにしがみつく。オモダカは唯、前を見ていた。宇宙を内包する様な目が、真っ直ぐに見つめている。何を?
「月からきます」
「はあ?」
 ごとんごとん。バリバリ。ぎゅうるるる。空が割れる。何かが穴からやってくる。否、それは決して彼女(彼)の意思ではない。こちらの世界に引っ張られるように、それは吸い寄せられてくる。
「デッカ?!」
「この大きさは想定外でした。アオキとポピーはどうですか」
「あーエリアゼロ。初期の予想到達地点に到着。ポピーがデカヌチャンを待機させとるけど、ブーストが必要。二人による複数テラスタルオーブの使用許可は?」
「全責任は私に」
「良い返事や。二人さん聞こえたやろ。頼むで」
 コォオと音がする。生き物らしきそれは重力に逆らおうと何かを噴射していた。でも、星に引かれては何もできない。オモダカが言った。
「タイムマシンの誤作動、承認します」
 キィンとオモダカの持つテラスタルオーブが呼応する。ゴーゴートが静かに唸る。
「ちょっ、このままテラスタルする気か?!」
「チリはしっかり捕まっていてください」
「体幹が丈夫なんは知っとるけど無理無理」
「捕まっていてくださいね」
「アッハイ」
 ゴーゴートがテラスタル現象を起こす。きらきらと輝き、体内を宝石が侵食するかのような心地がした。こんなもの、到底人間の身に起きていい事象ではない。
 だがオモダカはやってみせる。
「チリ、アオキに連絡を」
「はいはい」
「全て、任せました」
 全責任は私に。これこそが、アオキが一番嫌いで、最も全力になれる言葉だった。
 ああ、きっと怒られる。でもいいや。
 チリは輝くゴーゴートに乗りながら、それを操るオモダカの、大将にふさわしき背中に額を擦り付けた。

 何かは退散した。穴へと戻っていく竹のようなそれを見届けると、ハッサクから連絡があった。どうやら予想通りにアオキが激怒しているらしい。
「普段から好き勝手しているのですから、私のことも見逃せばいいじゃないですか」
「アオキさんの“好き勝手”と、さっきの総大将の“好き勝手”は、随分と違うとちゃいます?」
「まったく。私は平気です」
「うちらは死ぬかと思いましたけどなあ」
「タイムマシンの双極性と影響力はずっと残るでしょうね」
「あ、無視しよったな」
「困りました。私が死んでもパルデアが強くなり続ける。私は死んでしまうのに」
「ええ、絶対長生きするやろ……」
「何か言いましたか」
「何も」
 オモダカはまあいいですとゴーゴートのテラスタルを解いた。岩山を駆けながら、そうだと提案する。
「少し星見をしませんか。興味深い本があったんです」
「それ、いつの話ですのん」
「学生時代です。先日の学園訪問でチャンピオンのネモたちが話題にしていて」
「はいはい。付き合うたるさかい、さっさとデートしましょうや」
 こてんとオモダカの肩に顔を埋めると、彼女はくすくすと体を揺らした。
「助かります」
 無邪気な声に、チリはいつだって彼女に置いてかれるのだろうと確信した。
「お月さんにはちゃあんとお願いせんとなあ」
「はい?」
「何も」
 そして、アオキに怒られるのを引き延ばしながら、二人とゴーゴートはパルデアを駆け抜けたのだった。

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