ザクロ+マーシュ+ズミ/食事会


 ズミは料理人だ。伝説のシェフと呼ばれることもあるくらいには、有名であり、腕もある。そんな彼は自宅のキッチンでせっせと料理をしていた。やがて出来上がる料理は素晴らしいものだろう。そんなキッチンのあるリビングで、ザクロとマーシュは雑談を交わしていた。話すことはもっぱらポケモンについてだ。得意とするポケモンのタイプが違えど、ポケモンはポケモンに変わりはない。話題が尽きることはなかった。

 その合間にマーシュはそっとティーカップを持つと、落ち着いた動作で紅茶を飲んだ。それを見て、ザクロも紅茶を飲む。そして本当に久しぶりですね、と言った。そう、今日は彼らにとって久しぶりの食事会だった。
「ザクロはんもズミはんも何かと用事があったさかい……うちも挑戦者はんがたくさん来はってねえ」
「私は大会がありましたし…」
「ああ、見ましたえ。優勝おめでとう」
「ありがとうございます」
 祝福の言葉にザクロがお辞儀をすると、つかつかとズミが料理を運んでテーブルに運び出した。今日は三人とも疲れているのでコース料理などの少々堅苦しいものではなく、大皿に料理を盛って各々が自分で小皿に取り分けるという気軽なホームパーティーだった。

 テーブルに並んだ料理はポトフやキッシュにサラダなどであり、どれもとても美味しそうな出来である。それをザクロとマーシュは嬉しそうに見てから、どれを食べようかと思案し始めた。ゆっくり食べましょうとズミが言うと二人はそろって頷いた。
「ズミさんは確かリーグに挑戦者が来たんですよね」
「そうです。私の出番はありませんでしたが。」
「あら、そうやったの。」
「ドラセナさんが久しぶりに1番に指名されて嬉しさのあまり……」
「それはまた」
「挑戦者さん難儀やったなあ」
 そんな会話をしながら三人は食事を進める。ちなみに、ズミは自宅であり気心の知れた友人との食事ということで白いシャツに紺のズボン(料理中はこれに加えてベージュのエプロンを着用)という服装だ。ザクロは黒のハイネックに水色のセーター、迷彩柄のズボンを着用(そして外では深緑のジャンバーも着用)という姿である。そして紅一点のマーシュは何時もよりは軽そうな振袖を着ていた。紺の生地に白い水仙と銀糸によって雪の結晶が描かれたそれは何時もとは違うが派手な柄であり、とても目を引く。だが、本人はただ好きだから着ているだけということであり、視線など気にも留めてなかったことは余談である。
「あとシェフとして駆り出されました」
「そうだったんですか。通りで連絡が取れなかったわけですね」
「うちも連絡したんよ」
「すみません……とてもホロキャスターを気にすることが出来なかったもので」
「どんな方に料理を振舞ったのですか?」
「貴族の方です。かなりの偏食家の方で、注文が多くてなかなか思うように料理出来ず、フラストレーションが……」
「ズミはんが大人しく言うこと聞くなんて、よっぽど高貴な方やったんやねえ」
「あまり詳しくは言えませんが、由緒正しい家の方でしたとだけ。結局、三日ほどその方の為に料理を作りました」
「三日もですか、よく耐えましたね」
「最終的には怒鳴り込みました」
「ふふ、そうやろなあ」
 マーシュがくすくすと笑うと、ズミはもう二度と御免ですとため息を吐いた。ザクロはそんな二人を見ながらサラダを食べている。ちなみにサラダにかかったドレッシングは体重を気にするザクロのためにノンオイルである。そう、ズミは食べる人への配慮を嫌うわけではない。つまりその貴族は気遣うのが嫌になる程の偏食家だったということである。
「そうや、ええもんもろたんやわ」
「良いもの、ですか?」
「ふふ。ザクロはんにはこれ、ズミはんにはこれ」
「これは」
 マーシュが二人に手渡したのは未使用の絵葉書であり、ザクロのものにはアマルスとチゴラスが描かれ、ズミのものにはスターミーとギャラドスが描かれていた。クレパス風のその絵柄はとても優しく、二人の疲れた心に染み込んだ。
「うちはクチートとニンフィアの絵柄やったんです。ふふ、アマルスもチゴラスもスターミーもギャラドスもかいらしいやろ?」
「はい。とても」
「これはどうしたんです?」
「挑戦者はんが手土産に持ってきてくださって、あんまりかいらしいから二人にもあげとうおもうてね、挑戦者はんに聞いたら持ってるゆうから譲り受けたんですえ」
 ニコニコとマーシュがそう言うと、ザクロとズミはお礼を言ってザクロは鞄に、ズミは戸棚に絵葉書を仕舞った。そして食事を再開する。
 ふと、ズミが口を開く。そういえばデザートをどうしますか、と。
「メニューを聞いてもいいですか」
「クレープにしようかと思っていたのですが」
「あらおいしそ」
「……ズミさんが作るものですし、食べます」
「そうですか。それは良かった」
「ふふ、素直でよろしいですわあ」
 デザートが楽しみやなあとマーシュはキッシュを食べる。ちなみにそれなりにあった料理は殆ど無くなっていた。主にマーシュとザクロが食べたそれに、ズミは相変わらず食べる時は食べる二人だ、と思ったのだった。
「ズミさんはいつがいいですか?」
「え。嗚呼、すみません考え事をしていました」
「あらま」
「それで何ですか?」
「次の食事会についてです」
「ああなるほど。私は1番近くだと来週の水曜日が空いてますよ」
「水曜日はうちがダメやなあ。金曜はあかん?」
「確か夜なら空いていた筈です」
「私も金曜日の夜、大丈夫です」
「ほんなら金曜の夜に」
 ザクロがサラダの最後の一口を食べ終えると、ズミはクレープを作りに席を立ったのだった。





食事会
(来週の金曜が楽しみやわあ)
(私もです。あ、皿を片付けましょうか)
(流しに運ぶのをお願いします)

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