チリオモ/狂人の庭
!念のためネタバレ注意です!
雪を食む、なら、まだ良かった。
ここ数年は各地で異常気象が続いている。オモダカは穏やかに過ぎる風を見送った。この程度ならワタッコ達だって平気だ。今のところ、パルデアに異常はない。たまにハリケーンが起きる程度だろうか。
「すまん、待たせたわあ」
「構いませんよ。ご家族でしょう」
「まあ遠い親戚みたいなモンやな。なんか豪雪地帯に住んどったなーっと連絡したら、ビンゴやった」
「それって、大丈夫ですか」
「救助隊が来たから平気やって」
「それは良かった」
はにかむオモダカに、チリはむうと眉を寄せた。
きょとんとすれば、チリはさっとオモダカの剥き出しの手を取った。手袋は仕事の物。今は休日だった。
「冷た」
「? チリは温かいですね?」
「いくら風が弱いからって、冬にそんな薄着でおったらあかんて。カーディガン取ってくるわ」
「平気です。丈夫ですから」
「あかんヒトの言うセリフやん」
チリが室内に向かう。オモダカはテラスに背を向けた。白いワンピース。胸元にレースがあしらわれたそれは、チリが用意した服なのにと、オモダカは面白く思いながら、室内に入った。
温室となっている場所の、水路で小さな魚ポケモン達が泳いでいる。水路を傷つけてはいけませんよ。それだけ言うと、魚たちはくすくすと笑って泳いで行った。
深い水瓶には睡蓮が浮いている。その下で通常よりずっと小さなラブカスが揺れていた。危険のないそこに彼女はいつまでいられるのだろう。せめて、幼子である間は居ればいい。オモダカは素直に思う。
「おー居った」
「あ、チリ」
「探したんやで」
白いカーディガンを受け取り、羽織る。肌触りが良い。そこそこ服に煩いオモダカが満足できる品だった。
「ラブカス見とったん?」
「はい。まだこの子はシビシラス程度ですね」
「ホンマに。いつ見てもちっさいわ」
「幼子です。幼体と言ってもいいかもしれませんね。こういう子もたまに居るんです」
「知っとるけど、実際に見たのはこの子が初めてやわ」
「そうなんですか?」
「野生だったらすぐに死んでまう。そうやろ」
「はい。そうですね」
だからだろうか。
「より、守りたくなる」
「……なあ、」
「はい」
「こども、好きなん?」
チリの問いかけに、オモダカは柔らかに笑う。
「さあ、どうだったか……」
だから泣かないで。チリに声をかけると、泣いとらんと、否定された。
穏やかな箱庭の温室の中。ここに居るばかりだと気が狂いそうだった。狂人が庭を作ったらきっと、こんな色をしている。オモダカは素直に思った。チリはやっぱり苦しそうだった。