チリオモ/星月夜


!念のためネタバレ注意です!


 信じたかった、星のきらめき。いつか見た、星空の栄光に満ちた物語。小さきものも、大きなものも、全てが、強く輝いていた。
「キラフロルっ!!」
 あの洞窟はどこだったか?

 キラーメがゆらゆらと動いている。まだ赤ん坊だろう。迷い込んだのか。オモダカはキラーメに興味津々なキラフロルを落ち着かせるため、撫でていた。
 庭に迷い込んだキラーメは小さな体躯をしている。ふむと迷って、キッチンに立つチリを見た。チリは片眉を上げたが、大きなため息と共にええよと頷いた。
「みみたぶパスタや」
「美味しそうですね」
「チリちゃんが作ったんやから美味しいに決まっとる。ほら、ポケモンたちはこっちな。野生のキラーメも」
「キラフロル、落ち着きましたか」
 キラフロルは鉱石がぶつかるような鳴き声をしてから、そろそろと自分の食事へと向かった。
 食事を始める。サイダーを飲みながら、食べるパスタのソースはトマトベースだ。本当にこの地方はトマトを食すことが多い。
「で、あのキラーメどうするん」
「野生に返します」
「キラーメってどこに住んどるん?」
「洞窟なら大抵大丈夫かと。私が連れて行きます」
「一緒に行くで」
「チリは仕事があるでしょう」
「仕事があんのはお互い様や」
 なんか嫌な予感がする。チリの直感に、そうですかとオモダカはシラを切った。

 夜。ベッドの中。チリと身を寄せ合って眠る。オモダカはぱちりと目覚めて、そっと窓の外を見る。星空が輝いていた。思わず、起き上がって手を伸ばす。やや冷たいガラスに触れた。
 ふわり、白いシーツを肩に掛けられる。驚いて振り返ると、チリが起き上がっていた。
「カントー辺りの話や」
「……はい」
「月から来た女の子が、育てられて、月に帰る話でなあ」
「はい」
「多分、全てが巡ってんのやろ。あと、」
「はい」
「銀河を走る電車の話も聞いたことあるで。友達と乗るけど、帰る時にはさよならしとったやつ」
「はい」
「友達はきっと、最初っから帰る気なんてなくて、主人公と一緒に旅したかったんやろなあ」
「はい」
 チリの手が震えている。オモダカはそっと手を重ねた。ぽろぽろと涙を溢したチリを抱き寄せた。
「私はここにいますよ」
「本当に、堪忍してや」
「はい。すみませんでした」
 キラーメが輝いている。キラフロルがそっと花を開いた。キラーメが去っていく。空へ、空へ。薄くなっていく。遠くなる程、青み掛かる。青くなって、ぱっと消えた。残ったのは星空だ。毒の花が咲く場所(らくえん)に、オモダカたちは住んでいる。呼吸している。チリと指を絡めた。ぎゅっと力を込められて、痛いですとくすくす笑ったのだった。

- ナノ -