チリオモ/選択


!念のためネタバレ注意です!


 貴女ならできる。大人はみんなそう言った。
 でも、本当は、出来ないことばかりだった。
 一人では、何も。
「だから、あなたを選びました」
 ぽかんと、緑髪の少女が見上げている。オモダカは立ったまま、告げる。
「ポケモンリーグ、その最高峰で、待っています」
 最高のチャレンジャーになりなさい。そして。

「総大将ー!」
「はい」
「今、寝とったやろ。仮眠室はあっちやで」
「いえ、平気です」
「どこがや。ほら、仮眠してから仕事な」
「あ、ちょっと」
 チリにわしわしと頭を撫でられる。オモダカは、成長したものだとじんわり胸が温かくなった。ただの少女だったチリは美しく強い女性となった。アカデミーに入れて正解だったと、オモダカは頷く。その当時の学園長や理事長からは反対されたが、チリは逆境を乗り越えてより強くなった。大変なことをさせたと思う。でも、全く反省はしていない。
「オモダカ」
 ぴりっとした声がする。怒ってる。オモダカはくすりと笑った。
「はい。少し寝ます。留守の間、頼みますね」
「ん、ちゃんと寝ぇや」
 オモダカがふらっと仮眠室に入ると、静かなそこにホットスープが置いてあった。近くのメモにはチリの字で、差し入れ、と書いてある。一口飲むと、じわりと指先があたたかくなる。
「美味しい……」
 野菜のスープだった。飲んで寝ろということだろう。ポケモンたちのコンディションが万全であることを再確認してから、オモダカはごろんとベッドに横になった。
 数分で戻らねば。そう思いながらも、温まった体はふわふわと耐え難い睡魔を吸い寄せる。残っていた仕事は、何だったか。ああ、あれは。オモダカはすうっと眠りに落ちた。

 夜だった。ばっと起きると、オモダカは身なりを整えてから事務室に向かった。数人の職員と、チリが残って仕事をしていた。チリがおはようさんと振り返った。
「ちゃんと寝れたんやな」
「はい。思ったより熟睡してしまいました。仕事を回してください」
「ほい、総大将のサインが必要なやつ。皆も全部机に出してや、回収するでー」
「頼みます」
 オモダカが席につくと、チリの手で書類が山積みになっていく。だが、嫌ではない。この仕事が、また一歩、オモダカの理想に近づくのだから。
「チリは優秀ですね」
 書類に目を通してサインしながら言うと、チリは書類を受け取って、言った。
「総大将が見つけたんやから、当然やろ」
 人材って安くないんやで。にっこり笑ったチリに、オモダカは本当にとくすくす笑った。

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