チリオモ/王者/主にシロナとオモダカが喋ってます。


!念のためネタバレ注意です!


 進む。コツコツと足音を立てて、オモダカは長髪を揺らす。リーグ内、四天王の部屋に着くと、お疲れさんと声がした。
「視察終わったん?」
「いえ未だです。明日に回します」
「なんか問題あったんやな」
「はい。ナンジャモが時間が欲しいと」
「ほーお、そうなん。ま、仕上げてくるならええんとちゃう?」
「そう思います」
 オモダカは鞄から書類を出すと、チリに渡した。
「目を通しておいてください」
「何や、次のチャレンジャー候補リスト?」
「アカデミーの優秀生たち、だそうです」
「他人事やなあ」
「面と向かって戦わないと分からないでしょう」
「せやね。ま、見とくわ」
 チリは書類を手に面接室に向かった。だが、途中でくるりと振り返る。
「ところで総大将にお客さんが来とるで」
「……はい?」

「久しぶりね」
 金髪の美女。シロナの姿に、あなたでしたかとオモダカは苦笑した。
「リーグの視察ですか?」
「いえ、私にそんな権限はないわ。ただ、同じ立場のトレーナーとお喋りしなさいって言われて」
「ふふ、おかしな話ですね」
「本当に。あと、オモダカは中々パルデアから離れないでしょう? 元気かしら、ってね」
「ご心配をおかけしました。この通りです」
「ええ、元気そう。むしろ前より輝いているわ。一戦したいぐらい」
「シロナと戦えるなら是非」
「冗談よ。ガブリアスが万全じゃないの」
「それは大変ですね」
「滅多に風邪をひかない子なのだけど、ここのところ雪山を走り回ってたら体調崩しちゃって」
「この時期のシンオウの雪山は大変そうですね」
「まあ雪深いわね。忘れ去られた遺跡の調査は特に。誰も除雪しないもの」
「信仰の国でしょう、そちらは」
「それでも忘れられたモノたちは多いわ。あ、立ち話してないで座りましょ。クリームのケーキ買ってきたのよ」
「それは楽しみです。紅茶を用意させます」
「それなら……」
 こんこんとノック音。扉が開かれると、チリがティーセットを手に立っていた。
「あ、まだ座っとらんの」
「話が盛り上がってしまって。チリ、ありがとうございます」
「このぐらいお安いご用や。ほら座った座った」
「シロナ、先にどうぞ」
「ありがとう」
 シロナとオモダカが客室の椅子に座る。テーブルに、チリがティーセットを置いた。
 紅茶をティーカップに注ぐと、ほなとチリが出ていく。シロナは相変わらずねと苦笑した。
「とても仲良しなんだから」
「いけませんか?」
「いいんじゃない? 険悪よりはずっと」
「そうでしょうか」
「今、効率のこと考えたでしょう」
「シロナにはお見通しですね」
「ええ、とてもね。人を判断する目は信頼してるわ。だからこそ、もう少し感情を乗せたっていいのに」
「感情は、少し難しいかと」
「上に立つ者として?」
「はい。なるべく、完全で居たいと思うので」
「人間なんて様々で当然なのに?」
「それはそうですが」
 目を伏せたオモダカに、シロナは言う。
「色んな人がいる。色んな価値観がある。私たちの生きるこの世界は思っているより色彩豊かだわ」
「それは」
「チリちゃんとも、ちゃんと話し合うのよ」
「ええと、どうしてチリと?」
「パートナーなんでしょう?」
「そうですが、何だかむず痒いですね」
「公表してないものねえ」
「四天王とトップチャンピオンがパートナーというのは、余計な情報でしょう」
「まあ、変な詮索する人も居るでしょうね。想像を膨らます人だっている。でも、もうずっと一緒なんでしょ?」
「きっと」
「それに、親しい人には伝えてる。いいんじゃない?」
「きっと、そうだと良いですね」
「ええそうよ。さ、紅茶を飲みましょう。ケーキもちゃんと出すわ」
 シロナの何でもない物言いに、オモダカはやはりチャンピオンというものは違うなと、思ったのだった。

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