チリオモ/しあわせな昼休み


!念のためネタバレ注意です!


 昼下がり。オモダカがいくつか持つ家の一つ。大きなベッドで、すうすうと穏やかに眠る彼女の顔をじっと見る。美人は三日で飽きると、どこかの地方で言うが、オモダカの顔はいくら見ても飽きないな。チリはそう思ってから、よっこらせと立ち上がった。
 パルデアの昼休みは他の地方より長い。強すぎる太陽を好むが、日々生活するためには人間に強すぎる。だから、長い昼休みと、朝晩の仕事時間の確保が一般的だ。早朝と晩に仕事をするのだから、長い昼休みに昼寝をするのは一般的である。
 そんなパルデア地方の人間ではあるが、そもそもそんなに睡眠を必要としないタイプのチリは、この空き時間を創意工夫でもってやり過ごすことが好きだった。
 今日は午後のオモダカと自分のために冷たいガスパチョを用意しようと食糧庫を見た。中身は日持ちするものが多い。缶詰め類やスパイスをあれこれと選んで、足りない野菜は近所の共用畑の管理人に頼んで分けてもらった。もちろん、代金は払った上だ。
 ふんふんと鼻歌を歌いながらガスパチョを用意して、水筒に詰める。ぽてぽてとドオーが眠たげな目をしてキッチン近くに来たので、どうしたんと声をかけると、そっとベッドを見た。そこではふわと起き上がったオモダカがいた。
「おはようさん」
 黒いエプロンを外して近寄れば、おはようございますとふわふわとした返事が返ってくる。まだ半分寝ているような状態なのだろう。
「チリは何をしているんですか」
「ガスパチョ作っといたで。冷たいやつ」
「トマトの……」
「せやで。赤いやつ」
「嬉しいです。ありがとうございます」
 とろりと笑うオモダカに、チリは胸の裏側をザリッと引っ掻かれた気がした。締め付けられるなんてものじゃない痛みだ。愛情は痛みに似ている。たまらなくクセになる。
「なあ、今夜空いとる?」
「深夜にしか帰れません」
「ええよ。明日遅番やろ」
「はい、そうですけど」
「じゃあ、この部屋に集合な」
「わかりました」
 意味がわからないほど二人子どもではないし、まだ肩を痛めるような年でもない。仕事に響かないようにとオモダカが言い聞かせるように言うので、チリは総大将次第やなと顔を近づけながら言った。

 ところで、ドオーたちはベットルームとキッチンへは入らないように指示されている。なので、昼下がりとはいえ強すぎるパルデアの太陽を避けるようにしてリビングにいた。それぞれお気に入りのクッションやぬいぐるみを手に、眠る皆をドオーは眺めてから、ただひとり、壁に花のようにくっついて寝ているキラフロルを器用だなあと見ていたのだった。

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