チリオモ/怨念と恋煩い/タイムさんとライムさんも出ます


!念のためネタバレ注意です!


 呼ばれた気がした。
「理事長?」
「あ、ええと、タイム先生」
「ええ、こんばんは」
 タイムはにこりと笑うと、職員室によって行かないかしらとオモダカを導いた。
 夜中の職員室に人はまばらで、オモダカが来てもタイムに連れられているところからか、大袈裟な反応はしなかった。
「甘いホットミルクは飲める?」
「お気遣いなく」
「飲めるのね、少し待ってて」
「……はい」
 タイムが職員室の隣にある給湯室に向かった。夜中だ。真夜中でもアカデミーは万人の学徒に開かれている。
「何してんだい」
「っわあ!」
 窓からライムが顔を出した。ライムはアンタでも驚くんだねと何でもないように窓から入ってくる。オモダカは全く処理が追いつかず、フリーズしていた。
「あら、来てたの」
「ファンレターが早く見たいかと思ってね」
「またジムリーダーの復帰願い? もう先生なのにね」
「それだけ人気だってことさ。で、オモダカは何してんだい」
「そうそうライムを呼ばなきゃって」
「ははあ、なるほどね」
 姉妹に見つめられて、オモダカは漸く、喉をまともに震わせた。
「あの、何か」
「アンタ何背負ってきてんだい」
 ライムから聞きたくない言葉、ランキング上位ではないだろうか。

「除霊ぃ?」
「怨念がまとわりついていたとかなんとかと」
「そら妬み恨みぐらいは買いそうやけど」
「ライムが水晶を持たせてきたんです。ナッペ山産らしいですよ」
「大丈夫なんかソレ」
「さあ……」
 そもそも怨念なんてものから眉唾だ。ただ、ゴーストタイプを扱うトレーナーが言うなら何かあると見ていい。彼(彼女)たちは半身を黄泉に浸しているようなもので、ライムとタイムはその役割分担が強い者達だと、オモダカは認識していた。
 リーグの事務室で、二人は夜にも関わらず、書類仕事をしていた。
「水晶が割れたらもういいそうです」
「普通は割れたらヤバいんとちゃうの」
「あ、除霊は向こうでやっておくらしいので」
「リモートワークか?」
「流行りですね」
「リーグに導入するつもりはあるん?」
「リモートでバトルできるんですか」
「できひんな。はい、この話はお終いや」
「でしょうね」
 オモダカはブラックコーヒーを飲む。紅茶でも良かったが、何だかコーヒーが美味しそうに思えたのだ。
「そういや、チリちゃんとこにもなんかきたな」
「はい?」
「四天王の女の子。ゴースト使いの二人。地方は違うけど仲良くなったんやって」
「そうなんですね」
「で、まあ、なんか」
「はい」
「恋煩いしてるだろうって」
「……はい」
「ちゃうねん。恋人はアンタだけやし、他に目移りもしとらん。でも、恋煩いだって」
 なあ、とチリがオモダカを見つめた。
「その怨念って、」
 それ以上は言葉にならず、チリはああもうと頭を抱えた。
「きっつ」
「長期休暇の申請はいつでも受け付けてますよ」
「痛い子やんこんなん。子供か?!」
「そこまで言ってませんよ」
「わかっとるもん。だって、トップチャンピオンはいくつもの顔を持つ多才で多芸で忙しいおひとやし?!」
「落ち着いてください」
「ああもう嫌や、人から指摘されて思い当たるのが一番嫌や」
「チリ、あの」
「そんでこんな時に繁忙期やし」
「チリ、少しいいですか」
 なに、とチリが顔を上げた。オモダカが困った顔をして、言う。
「怨念が怖いので一緒に寝てもいいですか」
「……今晩?」
「水晶が割れる迄です」
 どうでしょう。オモダカの提案に、チリはパッと顔を明るくしたのだった。

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