チリオモ/かろく積もる


!念のためネタバレ注意です!


 真冬のリーグの空の上、タクシーが降りてきた。
 オモダカだ。チリは目を細める。地面に着陸したタクシーから、颯爽と彼女は降りてくる。かろく積もった雪とは正反対の黒いスーツに身を覆い、黒い髪をさらりふわりとキラフロルのように浮かせて、意志の強い目がきらきらと輝いていた。
 そんな目が、チリを認識すると、甘やかに和らぐのだから、ずるいと思う。
「おかえり。どうやった?」
「皆、元気そうでした。チャンピオンクラスに新しいトレーナーが加わっても、コンディションを保っているのは流石ですね」
「委員長が見込んだ人らやからな」
「ええ、私の目に間違いはなかったです」
 にこにこと上機嫌のオモダカに、チリはそら良かったわと安心した。
「ランチはどうするん」
「サンドウィッチを買ってきましたよ。このあとはリーグから出れそうにありませんし」
「書類が沢山あるで」
「やはりそうでしたか」
 ここ最近の騒動で、リーグ委員長として、理事長として、トップとして、やるべきことは山積みだ。
 だが、オモダカは嬉しそうに全てに取り組む。それだけ、新しいチャンピオンクラスの誕生が嬉しかったのだと、語っていた。チリも、面接した人間として、新チャンピオンの肝の据わり方はなかなかのものだと思っている。あと、勿論強かった。
「四天王の他の皆さんはどうしてますか」
「スクール、アカデミー、サラリーマン」
「アオキはまだ社会と接しているんですね」
「言い方がすごいなあ。まあ、サラリーマンとジムリーダーと四天王の三足の草鞋やな」
「私とそっくりですね」
「そうかあ?」
 チリが違和感を口にするが、オモダカは貫き通す。
「ええとても。彼ならできると後押しして良かったです」
「まーたぶつくさ言うで」
「いいんです。それだけで全てをこなしていただけるのなら」
「うわあ」
 似たもの同士。チリは遠い目をした。オモダカがこてんと首を傾げる。
「ドン引きですか?」
「そこそこな。ま、総大将らしいけど」
「ならば良いと言うことですね」
「超プラス思考やな」
「でんきタイプの話ですか」
「ちゃうわ」
 チリがオモダカの手を掴む。さっさと行こう。チリは言う。
「このままやと雪と仕事が積み上がるだけやし」
「そうですね」
 あ、そうでした。オモダカは言った。白い息がほうと漏れた。
「ただいまかえりました」
「ようやっと言いおったな」
 おかえりさん。チリはそう屈託なく笑った。
 午後にさしかかった真冬のリーグ。雪がかろく積もったそこで、彼女たちは羽ばたく蝶より力強く、リーグの扉を通ったのだった。

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