チリオモ/いつかの朝食


!念のためネタバレ注意です!


 穏やかな時間から目覚めるように。

 幸せな夢を見ていた。チリは目を開く。隣ではオモダカが寝ていた。昨日は二人でバトル談義をしていたら深夜どころか夜明け近くになっていた。なので、流れでチリの家に、オモダカが泊まったのだ。もともとお泊まりの用意が互いの家に置いている仲だ。困ることなんて一つもなかった。丁度、今日は休日だったはずである。でなければバトル談義なんて、トレーナーなら絶対に長丁場になる話題を互いに選んだりしない。
「起きとる?」
 声をかける。返事がない。本当に熟睡しているようだ。しなやかな体の線が、薄いルームウェアから見えている。綺麗なおひと。チリはうっとりとオモダカを眺めて、そっと手に手を重ねた。そして、そっと持ち上げると薬指に口吻を一つした。
 すると、ゆるりと、オモダカの目が開いた。
「チリ……?」
 いつもの意志の強い目が、ゆるゆると緩みきっている。だからチリは、まだ寝てるとええよと笑った。
「朝飯用意するわ。シリアルとミルクでええか」
「はい。すみせん、まだ眠たくて」
「ええよ別に。むしろ、役得?」
「なんですかそれ……」
 困り眉でくすりと笑ったオモダカに、そういうところだとチリは上機嫌にベッドから出た。ルームウェアからシャツとスラックスに着替えて、簡単な朝食作りに向かった。

 キッチンの近くでドオーとキラフロルが寝ていた。寄り添いあって寝ていて、いつの間にこんなに仲良くなったんだかとチリは笑みが漏れた。
 ポケモンたちのフーズも勿論用意する。むしろ、トレーナーより優先すべき事柄だ。手持ちたちの体調を見ながら、フーズを調整した。いつものことなので、時間はかからない。オモダカのポケモンたちのこともすっかり分かるようになっていた。
 ベッドルームから出てこないオモダカに、チリはすっかり支度を終えてから、声をかけに向かう。ベッドの中ですよすよと寝ているオモダカの頬に口付けをひとつ。んんと呻き声がした。
「ほら起きい、お姫さま」
「……そんな柄じゃありませんよ」
「チリちゃんの自慢のお姫さまやろ」
「もう……起きます」
「みんなもう食べ始めとるから」
「ポケモンたちのこと、ありがとうございます」
「気にしとったから、はよ顔見せたり」
「ええ、そうします。あの、チリ」
「ん?」
 するりと腕に手が絡まり、引き寄せられると、唇に触れるだけのキスをされた。
「おはようございます、チリ」
「ん、おはようさん」
 ほんまに敵わんおひと。チリはああもうと、リビングに向かったのだった。

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