"あなた"の物語6/備忘録にして進化論/主人公についての諸々/がんばる


 継承していく物語だった。老いも若きも、継承を繰り返した。

 いつしか、わたし(ぼく)は問うでしょう。
 無垢なる"主人公"に問いかけるでしょう。

「あらたな チャンピオン の たんじょう だ !」

 正解なんてある筈がなくて、でも、不正解なんて塵一つとて存在しないのだと。


Another.6…キバナ/ネズ


 ナックルシティから飛び出して、ルートナイントンネルを歩く。ぶらぶらと歩くと、猫背の陰鬱な男が歩いてくる。やあ、と手を上げれば、やあ、と返された。
「キバナですか。おまえも暇ですね」
「まあなあ。元々、オレさまのところまでチャレンジャーがなかなか来ないけど」
「おれのジムだってそうでした」
 もう、マリィに継いでもらいましたが。ネズは言う。今日もライブなんですよ。観客は多いほうがいいかと思いましてね、ナックルで宣伝でもしようかと。ペラペラと喋る男に、ならばとキバナは提案した。
「いいんじゃないか。手伝おうか?」
「ではSNSで一枚だけでも」
「映えそうなランチでも食べようぜ」
「いいですね」
 ネズはのそのそと歩く。バトルの時みたいに背筋を伸ばせばいいのにと、キバナは思う。が、そんなことはどうでも良かった。

「チャンピオンが何処にいるか知ってるか」
 サンドイッチを食べながら言う。SNS用の写真はもう撮っている。手についたマスタードを舐めながら、そうですねえとネズはぼやいた。
「知ってはいます」
「教えてくれるか」
「教えません」
 あの子には休息が必要なんです。ネズは言う。
「あの子は、アーマーガアタクシーも止まらないような、単なる村の子でしかなかった」
「うん」
「それが、あんな騒ぎに巻き込まれたんです。大人として、そっとしておくのがベストでしょう」
「それは、そうだろうけど」
 キバナはどうにも歯痒いと言う。
「何かしてあげれないのかなって」
「おまえ、いつからそんな偉そうな身分になったんです?」
「酷い言い草だな」
「酷くもなるでしょう。ああ、おまえはあの子を軽視しているんですね」
「してない! 唯、辛いなら、手伝いたくて」
「ノイジーです。言い訳は要りません。あの子のケアは、やるべき子どもがいますから」
 子ども、とは。キバナが目を見開く。ネズはあっけらかんと言い放った。

 ガラル地方のナックルシティは、今日も晴天である。
「ホップのことですよ」
 あの子が守っているから、何の心配も要らない、と。

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