"あなた"の物語3/備忘録にして進化論/主人公についての諸々/つづきた~~い
寂しいと、思わなくもない。もっと強くなりたかったと、思わなくもない。でも、それを決めるのはわたし(ぼく)ではなかった。いつだって、主人公という"怪物"となったわたし(ぼく)には意思決定権などなかった。
宇宙との交信だなんて浪漫は言わない。でも、確実に外からの力が働いていた。そうでなければ、わたし(ぼく)たちは主人公になどならなかった。
オニオンは心配するだろうか。サイトウは拳を握りしめるだろうか。どちらも強いから、わたし(ぼく)たちが歩みを止めても、きっと、泣くことはないだろう。
Another.3…オニオン/サイトウ
とん、とん。
かつかつ。
二人分の足音がした。すれ違う、肩がぶつかりそうになる。避けた。
「ご、ごめんなさい」
「いえ、こちらこそ」
二人はすれ違う。生きる世界が違ったからだ。
同じ町の、同じジムの、違うジムリーダー。どちらかが選ばれれば、どちらかが立場を失う。それが悪いと思ったことはない。トレーナーとは得てしてそういうものだからだ。
「サイトウさん、は、あの人に会いましたか」
「チャンピオンなら、もうずっと連絡が付きませんよ」
「そう……です、よね」
オニオンが顔を伏せる。サイトウは仕方ないですと、彼の肩をとんと叩いた。
「時期が来たんです」
「そうでしょうか」
「まだ、実感がわきませんか」
「ええ、実は」
まだ、すぐそこにあの人が居る気がするんです。オニオンは仮面の向こう、丸く澄んだ目をサイトウに向ける。サイトウもまた、真っ直ぐな力強い目を、返した。
「そのうち、わかります」
「そうでしょうか」
「そうでしょうとも」
サイトウは、それではと踵を返した。そこで、待ってくださいとオニオンは声を張った。
「もう一度でも、ぼくたちは会えますか」
サイトウは立ち止まる。分かっていた。この会遇は奇跡だった。トーナメント戦が行われる、リーグの裏の、通路の真ん中。世界と世界が混じり合った、泡沫の記憶。
「会えません」
そうすれば、願いが叶うのだから。
そう、サイトウもまた、諦められないのだった。