"あなた"の物語2/備忘録にして進化論/主人公についての諸々/つづきたい


 夢を見ていたの。素敵な夢だったわ。そんな風に、言えたら良かったのに、わたし(ぼく)たちの口は閉ざされたまま、開くことはない。

 才能とは何だろう。がむしゃらに走り続けることだろうか。だとしたらこの世界には才能のあるトレーナーしかいないだろう。

 そんな話をすれば、ビートは呆れるだろう。
 才能とは、ぼくのようなトレーナーにあるべきなのだと。


Another.2…ビート


 ぼくは館の電飾を磨く。大掃除をしよう。そんなポプラさんの突然の思いつきで、ぼくは館の電飾を一つ残らず輝かせることになった。ジムトレーナーの大半は、あの舞台じみたジムの整備にかかるらしい。
 ポプラさんはそのジムの方で、あれこれと指示を飛ばしている。ジムがよりピンクになっていなければいい。ぼくははあと息を漏らした。

 息が詰まるような気持ちだった。ぼくの人生をめちゃくちゃにした張本人はチャンピオンになった。だが、ダイマックス騒ぎが終わると、とんと連絡がつかなくなった。
 初めのうちは、トーナメント戦に呼ばれたから、姿を見れた。でも、もう一ヶ月は姿を見ていない。

「潮時さ、こういう時ほど掃除をしないとね」
 ポプラさんはそう言って元気そうにしていた。ぼくには信じられなかった。掃除なんてしている暇はない。チャンピオンを探しに行かねばならない。言いたかったのに、ポプラさんはさっさとぼくを屋敷に追いやった。ひどい人だ。でも、一人の時間をくれたのだとわかった。
 ブリムオンが柔らかくぼくの肩に触れる。泣くものか、怒るものか、焦るものか。才能と天才はぼくのものだ。ぼくは変わらない。ずっとずっと変わらない。
 だから、あなた。早く顔を見せて、ぼくに挑ませて。

 磨くために電飾を落とした館は、薄暗い。外から、チョンチーとキノコの淡い光が射し込む。それはそれは、美しかった。
「電飾を磨いたら、次は床も磨きましょう」
 ブリムオンはこくりと頷いた。まったく、よくできたパートナーだった。

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