"あなた"の物語/備忘録にして進化論/主人公についての諸々/つづくはず
ガラルの時は進んだ。だが、もう止まってしまった。
いつからだったか、覚えていない。わたしは、わたしだった。ぼくは、ぼくだった。大衆という、名も無きオーディエンスの一粒に過ぎなかったわたし(ぼく)たちは、主人公に、なった。
そんなのバカみたいな話だと、マリィは笑うだろう。
彼女はずっと、強かで、美しいから。
Another.1…マリィ
マリィは、いつもしゃんと背筋を伸ばしているつもりだ。マリィに品と美しさを与えたのは、強く美しいアニキだった。
ねえ、アニキ、聞いてほしいけん。そう問いかけたいが、今、アニキはライブ中だ。
マリィは暗くてネオンが光る、薄寒いスパイクタウンの片隅で、あなたを待っている。ここしばらく、トーナメントに呼ばれていなかった。
もう、飽きてしまったのかもしれないね。名も無き誰かが呟いた。そんなのは困る。マリィは焦った。マリィはまだ、チャンピオンに勝っていないのに。
マリィはチャンピオンに勝って、チャンピオンになりたい。それがいくら大変なことだと言われても、歩みを止めるつもりは無かった。
だが、チャンピオンが居なくなっては、夢の柱が揺らぐのだ。でも、もう、この大地はチャンピオンを求めていない。そのことも、痛いほどに分かった。だって、危機は去ったのだ。マリィの知らないところで、ガラルは救われた。マリィとは何ら関係のない歴史の中で。
悔しかった。泣きたかった。泣けなかった。マリィはつんとすました顔で、今日もスパイクタウンで立っている。
いつか帰る"あなた"に胸を貸すために。