キバネズ/酔狂/あまねくべく


 強欲と言われたっていい。ネズはそう思う。街も、マリィも、歌も、何もかもを追いかけるのが、強欲だと言われようとやめるつもりはない。そう思っていたのに、キバナは軽々と言うのだ。
「そんなの、強欲なうちに入らねーって」
 強欲ってのはオレさまみたいなものだ。キバナはニッと笑んだ。
「勝つことも、ファッションも、SNSも、宝物庫も、ジムリーダーも、ネズのことも全部ほしいんだからさ」
 指折り数え、明るく笑う。守らせてくれよ。なんて言われて、ネズはハッと笑った。
「守られてなんてやりませんよ」
 たとえ、それがキバナの専門たるドラゴンタイプの特性だとしても、譲れるものではない。
「残念ながら、おれは財宝なんかじゃないんでね」
 べえと舌を出すように言えば、ひでえのとキバナはケラケラ笑った。

 場所はナックルシティのパブで、飯をつまみながら酒を飲む。上機嫌なキバナに、つられてネズも酒が進んだ。やはり、何だかんだで気の合う人間と飲むのはいい。
「そういやさあ、指、いくつだ?」
「教えねーですけど?」
「指輪渡そうと思ったのによー」
「ぜってえ指には付けません。まあ、リングペンダントですかね」
 それとも部屋に飾ってやりましょうか。そう饒舌に語れば、そりゃいいなとキバナは気に入ったらしかった。
「オレさまの財宝がネズの家にいっぱいあるの、めっちゃいい。オレの棲家にしていい?」
「ダメに決まってるでしょう?」
「だよなー」
 あーあ、通い婚かあ。キバナは酔っ払いながら言う。ネズもまた、くっくっと笑った。
「では、おれからも指輪を贈りましょうかね。勿論、部屋に飾ってくれますね?」
「あ、さてはぜってーサイズ合わせるつもりねーだろ!」
「リングペンダントなんておまえのバトルスタイルだとすぐにアクセサリーがダメになりますしねえ」
「ほんとそれなあ」
「スマホロトム何度壊したんでしたっけ?」
「最近は色々頑丈にしてもらってる特注品だぜ」
「その前の話ですよ」
「んー、わかんね。ロトムが拗ねるぐらい?」
「相当ですよ」
 わははとキバナは笑う。ネズは時計を見て、そろそろ解散しますかとテーブルにきっちり半額を金を置く。あ、オレさまもとキバナが残りの代金を置くと、二人でパプを出た。

 外の空気にぶるりと震えると、手を差し伸べられた。気まぐれにネズが手を出せば、きゅっと握られる。ボッと一気に酒が回った気がした。
「外ですけど?!」
「いいじゃんべつに。暗くて見えねえって」
「そういう問題じゃねーですけど?!」
「スパイクタウンまで送る!」
「おまえ、もうべろべろじゃないですか」
「オレさまのパートナー達は酔ってねーもん。へーきへーき」
「さっさとお前の家に行きましょう。そっちのほうが近いですし」
「財宝じゃねーって言ってたのに?」
「おれはリアリストなので酔っぱらいに送られるのは駄目だと冷静に判断します」
「でもネズはオレさまの財宝だもん」
「だもん、じゃねーんですよ。ほら、さっさと行きますよ」
「ネズはオレさまの家覚えてんの?」
「当たり前でしょう。何度通ったことか」
「わー、うれしい」
「おいこの酔っぱらい、抱きつくなってんですよ!」
 キバナを背中に背負うように歩きながら、これだから酔っ払いはとネズはため息を吐きつつも、悪くないだろと背後から言われては、仕方ないと諦めるしかなかった。

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