◎雷鳴、夕立に濡れ


黄今


 ゴロゴロとそう遠くない場所から雷の音がする。光はさっき見えた。
 それにしてもツイてない。部活がわりと早く終わって、少し寄り道出来そうな時間なのに、夕立に降られるなんて。
(あー会いたい)
 想い人のあの人に会えば、この夕立もこの鬱屈した気持ちも晴れるような気がした。まあ、そんな都合良く会える訳も無い。
 あの人は今、何をしているのだろう。体育館で部活だろうか。それとも受験勉強だろうか。何にせよ会いたい気持ちは変わらないのだけれど。
 夕立はそんなに長くないのだとあの人が言っていたことを思い出す。この雨は昨今の異常気象でゲリラ豪雨なんて名付けられそうなものだけど、やっぱり夕立なのだからすぐに終わるのだろう。いや、ゲリラ豪雨も短いのが条件だったような。
「あ、黄瀬君やん」
「え」
 声に吃驚して勢い良く振り向く。そこには傘を差したあの人が居た。折り畳み傘ではない、普通の雨傘を持つ俺の想い人が。
「今吉さんどうしたんスか?!」
「特になんもあらへんよ」
「だってココ通らないッスよね?!」
「そんなん黄瀬君に会いに来たに決まっとるやん」
 にっこりと笑みを浮かべたあなたに、俺は顔を手で覆う。なんて殺し文句を言う人なのだ。意識しているのは良いけれど、自分の魅力をもっとキチンと知ってほしい。言葉の破壊力は使った人物の魅力に大きく関わるのだから。
「あーっもう!今吉さん傘入れてください!そんで俺ん家!!」
「ええよー。元からそのつもりや」
「だから、ああ、もういいッス。」
 俺はひょいっとあなたの傘に入り、さっさと柄を受け取って歩き出す。隣に並んで歩くのはもう慣れっこだ。それでも今日は相合傘なのだから歩幅によくよく気をつける。
(家、確か今日は皆居ないか)
「なあ、黄瀬君。」
「なんスか?」
 スーパーで何か買っていこうとあなたは笑顔だ。まさか。
「外泊届けとか、出してないッスよね…?」
「出しとらんわ。夕飯は食べてくつもりやで。食材はちゃんと自分で買うから安心しい」
「食材費は俺も出すッスよ」
「まあ二人やしなー」
 当然のように家族の外出を知っているあたり、やっぱり食えない人だし、そこも魅力だななんて思う俺は大概恋は盲目なのだろう。


2014.7.4 7番今の日おめでとうございました


07/07 00:56
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