◎素直


アルカヴェ/にょたゆり


 カーヴェ、と呼ばれる。何だよと返事をすると、ふ、と笑っておいでと導かれる。
 アルハイゼンの膝の上に乗せられる。彼女は背が高い。カーヴェが小柄なもあるが、アルハイゼンは手も足もカーヴェより大きい。そもそもの骨格の差だろう。ちょっと悔しかった。
「カーヴェ、この本についてだが」
「ああ、読んでおいたぞ。百頁目から様子がおかしくないか? 矛盾がある」
「やはりか。だがその次の頁だが……」
 淡々と議論しながら、アルハイゼンはぎゅうぎゅうとカーヴェを抱きしめる。彼女は胸も大きい。いいな、と思うが、それよりも重たいことを知っているので、何も言わない。ただでさえ、カーヴェは肩凝りがひどいので、胸など大きかったら大変である。
「カーヴェ、気がそぞろだろう」
「ん、ごめん。三点目の指摘なんだが、前述が足りないだろ」
「補足がいるな」
 さて、とアルハイゼンが本を置いてカーヴェを抱きしめる。カーヴェも、手にしていたスケッチブックを置いた。
「なんだよ」
「先輩が議論に集中してくれないんだろう?」
「ごめんってば」
「カーヴェ、」
「あ、こらっ」
 するりとシャツの隙間から指が入ってくる。やわやわと素肌を撫でられて震えた。
「するならベッドがいい」
「分かってる」
「なら、」
「腕を回して」
「ん、」
 アルハイゼンに縋ると、抱き上げられる。そのまま進むので、メラックにスリープモードを指示した。
 ベッドルームはひとつだけ。ベッドだって、ひとつだけ。綺麗に整えておいたそこに寝転がると、アルハイゼンが馬乗りになる。
「きみが、」
「なんだよ」
「きみがそう素直だと、可愛がりたくて仕方がないな」
 ゆるりと目を細めるおんなに、カーヴェはどきりとした。だって、ベッドの上で可愛がりたいなんて、そんな。
「発情期の猫か?」
「好きに捉えればいい」
 ただ、きみにしか発情しないさと、おんなはおんなに向けて、薄く笑っていた。


03/05 20:45
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