◎ワンピース


アルカヴェ/にょたゆり/掌編


 柔らかな手触りの布を撫でている。
「うん、これはワンピースにしよう」
「きみはいつから裁縫をするようになったんだ」
「別にいつだっていいだろ。服を作ることは非難されることじゃない。店主、この布をくれないか」
「俺が払う」
 布だけではなく、日用品のあれこれの買い出しを済ませて、帰宅する。するとすぐにカーヴェはリビングで型紙を作り始めた。頭の中に図は入っているらしく、サクサクと紙切れで型紙を作った。
 アルハイゼンはじいとカーヴェの手元を見る。彼女はその細い指で、丁寧に布を切り出し、メラックの助けも借りてせっせと縫い進める。
「夕飯は俺が作ろう」
「え、なんでだ?」
「きみはそれを完成させるといい」
 衣服だって、一つの芸術である。アルハイゼンは彼女が作るものならばなんだって見たかった。

 合理的な夕飯を作り、カーヴェと食べて、また縫い物をする彼女を見守る。メラックの補助もあり、明日には完成するようだ
「徹夜はするな。パフォーマンスが落ちるぞ」
「今日ぐらい平気だろ!」
 僕はすぐにでも作り上げたいんだ。その心意気に、アルハイゼンは彼女の肩をトンと叩くに留めた。

 かくして、翌日の朝。アルハイゼンが起床してリビングに行くと、カーヴェはそこでずっと服を縫っていたようだ。ふっと手が止まる。出来上がったワンピースは美しい。柔らかな手触りが、着心地に繋がりそうだ。なるほど、部屋着にちょうど良さそうである。
「アルハイゼン、はい、どうぞ!」
「俺に?」
「そうだ! 僕の分の生地も余ってるから、お揃いにしよう」
 ふふと幸せそうに笑う彼女に、アルハイゼンはきゅうと胸が締め付けられて、そっと抱きしめる。わっと驚くカーヴェをぎゅうぎゅうと抱きしめて、告げた。
「ありがとう、カーヴェ」
「ど、どういたしまして。大したことはしてないけど、」
「嬉しいよ」
「う、うう、そうか、それならいいんだが」
 カーヴェが頬を染めてアルハイゼンに縋り付く。うなじを掴んで、上を向かせると、触れるだけのキスを落とした。
「今日はもう休むといい。休日にしても問題はないだろう」
「そうしようかな。少し疲れたかも」
「朝食は俺が作る。きみは片付けをしておくといい」
「あ、ありがとう!」
 いそいそと散らばった型紙や布切れを片付け始めるカーヴェを見てから、アルハイゼンは朝食を作るためにキッチンに向かったのだった。


02/05 13:43
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