◎花神の化身の一つの🏛くん


鍾カヴェ/🔶🏛/花神の化身の一つの🏛くん


 遠い遠い音楽。煌びやかなそれを、カーヴェはどこかで聞いていた。演舞。舞台で舞っている。カーヴェはそれをじっと見ていた。場所は璃月港。裏側の小さな舞台。ただし、カーヴェが美術を担当したものだった。
「貴殿に頼んで良かった」
 鍾離が笑う。ここは鍾離の古い友が座長をしている劇団のメインの舞台らしい。カーヴェは手助けしただけですと、最低限のモラで働いた。鍾離は座長たちからこっそりと、カーヴェに正当な対価を払うように頼まれている。カーヴェはそれを知らずに、鍾離を隣に舞台に魅入っていた。
「芸術は良いね。僕は気に入ったよ」
「それは良かった。友たちも喜ぶだろう」
「鍾離さんからするとまだまだかな。僕としても改善点が見られるし」
「そうか? よく出来ている」
 そもそも、と鍾離は言う。
「舞台芸術はなかなか手がけないのだろう?」
「それでも仕事ですから」
 にっこりとカーヴェは笑う。仕事向けの笑みだ。その向こうに、世界を美しいと笑ったかつての"かみ"が見えた。
 カーヴェに自覚はない。でも、やはり彼は芸術を愛した、儚さを尊ぶ、かのかみの魂を持っている。


06/26 20:30
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