◎帰路


鉢くく

真っ白な空間だった。己の手も足も見えず、それは真白の闇だった。ぞっとするような恐ろしさに私は苛まれた。すっかり恐怖を植え付けられた時、気がつくと私は現実世界で横たわっていた。

「三郎!気がついたか!」
「へい、すけ…?」
「そうだ。雷蔵!三郎が目を覚ました!早く学園に戻ろう」
「そうだね兵助。三郎立てる?」
「雷蔵ー!兵助ー!任務完了だ!」
「ナイスタイミング八左ヱ門。よし、兵助はそっち持って」
「ああ。三郎、俺たちが支えるから立て」
「あ、ああ…」

私は兵助と雷蔵に挟まれて歩く。どうやら強く頭を打ったらしく、頭痛を強く感じ、吐き気がした。しかし今吐くわけにはいかないので、耐えた。

「雷蔵、止まろう」
「え?」
「三郎が気持ち悪そうだ。吐き気でもするんじゃないか」
「そうか、あれだけ強く頭を打ったもんね。じゃあそっち行こう。」

どうやら兵助には暴露ていたらしく、木の茂みで胃の中のモノを吐く。吐き気は最悪、吐いてしまえば一時的には収まるものだ。
そこで頭を打った以外に外傷がない事を確認する。矢張り頭を打ったのみらしい。

「三郎、行こう」
「敵陣を殲滅しても他所からやってくるかもしれない。そうしたら僕らは」
「雷蔵、行こう」
「…うん」

私は再び兵助と雷蔵に挟まれて歩く。時間の経過で頭痛が少しマシになってきた。よし、此れなら一人で走れる。

「もう行ける」
「そうか、雷蔵」
「うん。三郎、無理はしないでね」

その雷蔵の言葉を皮切りに私達は走り出す。頭痛はするが、走る事に問題はなかった。夜明けまであと一刻ほどだろう。其れ迄に戻らねばならない。焦りを感じた時、ふと黒い猫っ毛が視界を掠め、手が誰かに掴まれた。否、誰かなんて分かり切っている。

「三郎、行こう」
「…ああ」

兵助の手を握り返して、私達は走る速度を上げたのだった。





帰路
(仲睦まじく)


05/25 02:30


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