◎ 酸素との邂逅


鉢くく

私が生き暮らすこの世界はなんと生き辛いのだろうか。幼い私は幾度となくそう感じた。

天才と祭り上げられた私は過度の期待を背負わされ、何かを話せば奇妙奇天烈だと言わんばかりの顔をされる。

天才の考えることは分からない、なんて耳にタコが出来るほど繰り返し聞いたもので。嗚呼、もう耳に痛いものだ。

そんな私に話しかけたのが雷蔵だった。その次に八左ヱ門、委員長仲間の勘右衛門。最後に、兵助が私に構うようになった。否、それは語弊が在る。兵助は好き好んで俺の元へは来ていなかった。ふと気がつくと(否、気配では気がついて居る)少し離れた側に居た。

雷蔵と八左ヱ門は事在る事に私に話しかけた。勘右衛門は組みが違うから二人ほどではないが、委員会などでよく話しかけて来た。そして、兵助はただ私から少し離れた側に居た。

兵助は自分から私に話しかけてくることはまず無い。ただ、無言で少し離れた側に居た。それは決して居心地の悪いものではなく、むしろ心地良さを感じた。付かず離れずとは正にこういう事という兵助の態度に、私は奇妙な安心感を得たのだ。

それから私は五年となった。私はあの頃のまま、雷蔵と行動し、八左ヱ門の虫探しに付き合い、勘右衛門と菓子を食べた。兵助もあの時のまま、私の少し離れた側に居てくれた。全てが当たり前で愛おしく、兵助のそれは私に何よりも幸福感を与えた。

「三郎は恋してるね」
「幸せそうだねー」
「兵助に告白しないのか?」

三人から各々別々の機会で言われ、私はストンと納得する。あの幸福感は恋情なのだと。

だから私は兵助に告白した。兵助は驚きで目を見開く。その珍しい表情に、これを見れただけで告白して良かったと思った。そして兵助は俺の告白を受け入れた。





酸素との邂逅
(息苦しい世界で私は四人の空気と出会った)
(その中でも兵助は酸素であり、)
(私の生に必要不可欠な幸福感を与えた)
水魚


05/25 02:28


- ナノ -