◎君をワンダーランドに導く 雷くく 夢中夢というものを知っているだろうか。夢の中で夢を見るという、言葉のままの夢である。 ある日、五年い組久々知兵助は夢中夢を見た。それはとても可笑しな感覚であり、兵助はとても不思議に思った。その時はそれだけだった。 また、兵助は夢中夢を見た。目覚めても目覚めても夢の中。兵助は少しばかり疲れてしまった。たった二度目だというのにである。そんな久々知の異変に気がついたは五年ろ組の不破雷蔵だった。 「どうしたの」 人の異変に気がつきやすい雷蔵はほぼ直球でそう切り出す。兵助は隠すことなく夢中夢のことを話した。 「それは困ったね」 とても疲れるのだ。そう話す兵助に雷蔵はちょっと待ってと言ってポケットから何かお守りのようなものを兵助に渡した。 「これがあれば大丈夫」 優しく温かいその声に、兵助は安心感を覚えながらお守りを握った。 その時、目覚めた。 兵助は目を覚ますと、夢中夢だったと気がつく。いい加減夢中夢ばかり見ていれば夢だと気がつくものかと思うだろうが、案外目覚めるまで気がつかないものなのだ。 「どうしたの」 朝食を食べながら共に朝食を食べる雷蔵にそう聞かれ、兵助は素直に夢中夢のことを話す。デジャヴだが、兵助はそんなことは気にしない。夢だったら夢で目覚めれば何も進んでいないだけ。それだけなのだから。 「それは困ったね」 「ああ」 兵助が豆腐に箸を運ぶのを横目に、雷蔵はゆっくりと口を開く。 「これは夢じゃないよ」 兵助はピタリと動くのをやめ、ぎこちなく雷蔵を見た。雷蔵は微笑んでいた。 「夢と現実が分からなくなってるんじゃない?」 「…そうかもしれない」 「だからさ。今は夢じゃない」 「…」 「現実だよ」 雷蔵の言葉に、兵助はとても安堵した。雷蔵の言葉は今の兵助には残酷なほど優しいものだったが、兵助は甘受けすることにした。夢だったら夢だった時だなんてまた考えながら、である。そんな思考を読み取った雷蔵は苦笑して豆腐を口に運んだ。 君をワンダーランドに導く (夢中夢とは厄介なものだ) (おかしなことにならなければ良いのだけど) 05/25 02:26 |