◎脳髄まで蕩けさせて


綾→くく


 すきですせんぱい。そう何度も言う綾部に俺は何も言わない。最初の数回は返事をしていたが、もう返事をするのが億劫になった。それほど綾部は俺に告白のようなものを言う。告白と言い切れないのは綾部の言うそれの響きに、秘密を露わにしたとか思いを告げたとかという匂いがしないからだ。それの響きは無臭というのが正しく、ただの言葉の羅列にしか聞こえなかった。

「すきですせんぱい。世界でいちばん」

 綾部は俺に触れたりすることなく、一定の距離から話しかける。いや、話しかけてすらいないのだろうか。返事をしてもしなくても綾部の行動に変わりは無いのだから。

「すきですせんぱい」

 綾部は無表情だ。何、特別なことじゃない。綾部はあまり表情に変化が無い。

「すきですせんぱい」

 嗚呼、また言っている。綾部は是迄通りに言い続けるのだろう。

「すきですせんぱい」

 でも、これほど言われるとまるで、まるで。

(とろけそうだ)

 蕩ける、そうだ。いっそ…





脳髄まで蕩けさせて
(そうすれば俺は)(すきですせんぱい)
不思議系美人7題
劣情ノイズ


05/25 02:19


- ナノ -