◎お散歩@風見


風見


 一人、歩いている。夕方の東京は騒がしい。否、いつだってこの地は喧騒に塗れている。それが愛おしいと思うのは、平和だからだろう。水面下で闇が蠢いていることを風見はよく知っている。知っていても、この平和を感じると、守るべきだと実感する。人はろくでもない生き物だ。そう感じる事件を多々請け負ってきた。だけど、それ以上に尊い生き物なのだ。
 日本の、小さな東京の、街角。風見は立ち止まる。吹けば飛ぶような駄菓子屋に、子供が駆け込む。おばあちゃん、フーセンガムください。そんな声に、店主は十円と引き換えにフーセンガムを一粒渡す。ありがとうと言い終える前に口の中にガムを放り込み、子供は駄菓子屋から駆け出した。虫取り編みも虫かごもないのに、彼は虫を探しているように見えた。子供は虫取りをして遊ぶものという概念が己の中にあるのだろう。風見はふっと思い出す。
 江戸川コナン、あの末恐ろしい子供も虫取りをして遊ぶことがあるのだろうか。
 どうしてか想像できなくて、風見はうんと考える。彼は虫は虫でも本の虫ではないか。そんな気がして、まさかなと笑った。まだ小学一年生だ。外を駆け回って遊ぶほうが健全ではないだろうか。

 そろそろ日が暮れる。風見は踵を返し、仕事に戻る。休憩に散歩でもしてこいと同僚に追い出されたのだ。ひどい顔色だと言われたが、少しはマシになっただろうか。
 国を守る使命を、思い出しただろうか。
「チョコレートでも買っていくか」
 駄菓子屋だと目立つので、コンビニで買おう。風見はそう決めて、歩みを早めたのだった。


09/16 17:38
- ナノ -