◎花火のひととき


哀+風見/花火を見る話


 河川敷で花火大会が行われるらしい。
 灰原は子供達と花火大会に来ていた。当然、博士もいる。蘭と園子も来ていて、全員が思い思いの浴衣を着ていた。
「ねえ哀ちゃん! 花火って何時からだっけ?」
「八時よ」
「一時間後だな」
 コナンの補足に、歩美は楽しみだと笑った。元太がお好み焼きを買い、光彦がヨーヨー釣りをする。灰原は蘭にリンゴ飴を渡された。
「え、」
「気をつけて食べてね」
 ふわりと微笑まれ、灰原は頷いた。

 灰原は淡い紫の浴衣を揺らす。少しだけ人混みから外れ、屋台の隣に立った。リンゴ飴は袋の中だ。子供達も保護者も充分に見える位置で休んでいると、ふと見たことのある顔を見かけた。
「「あ」」
 二人の声が重なる。男性は淡い青色の浴衣を着ていた。
「きみは……」
「久しぶりね」
 そうだなと、男性こと風見は苦笑した。

 風見は灰原に誘われるまま、一行に加わった。コナンは何か探りを入れていたが、何もわからなかったようだ。
「花火は八時よ」
「ああ、そうだった」
「明日は晴れるわ」
「これだけ晴れているからな」
 噛み合っているのか、いないのか。他人にはイマイチ分からない会話をしながら、風見は大人しくしていた。灰原はそれを見て、厄介な大人だと息を吐く。
「静かね」
「……先ほどから勘違いしてないか」
「あら、違うの?」
「今日はプライベートのつもりなんだが」
「でもいつ電話があるか分からないでしょう」
「たしかに」
 あり得るとぼやき、遠い目をした風見に、仕方のない人達だと灰原は笑みを浮かべた。
「江戸川君がいるもの」
「それは、どういう意味で?」
「何もないわけがないわ」
「なるほど」
 風見は頷いた。灰原もまた、笑みを消す。本当に、何もないわけがない。
 気がつくと日が暮れていた。夜闇の中、提灯の明かりが辺りを照らす。
「そろそろね」
「無事に始まりそうだ」
「そうだといいのだけど」

 光が抑えられた河川敷。ドォン、花火が上がる。ぱらぱらと散る火薬。風に流される煙。大きな音と、歓声が上がる。
「綺麗ね」
「本当に」
 二人は空を見上げて、一瞬の花を目に焼き付けた。生温い、夏の夜のひと時だった。


 その頃、一行からコナンが消えていたとか、降谷がビルに凸したとか、どこぞで狙撃戦が行われたとか、白いスーツが飛んでたとか、そういう話は無かったことにする。


「花火は、何年振りだろう」
「とても綺麗ね」


06/21 15:56
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