◎僕のエメラルド


降風/鉱石のあなた/天然の指標は「傷だらけ」


 鉱物、鉱石。有用なそれは、時に金属以外も指す。

 降谷さんの目は宝石みたいだと思う。青くて、澄んでいて、それでいて深い色だ。どの宝石よりも美しく、強い。恐れすら感じさせる。
「青い宝石といえば、ラピスラズリかな?」
 小さな彼が、ひょいと携帯の画面に検索結果を表示する。フットワークが軽いなと思いながら、画面を見るも、違うなと直感した。
「違う?」
「それは宝石だろう」
 宝石みたいって言ったのに。彼は言いながら携帯を仕舞って、缶のオレンジジュースを飲む。現在地は比較的最近できた商業施設の中。小さな彼は大人に追い出されたらしい。
「もうちょっとかな」
「話し合いが終わるのか」
 その隙なら会議室にも入れるだろう。そう考えていると、彼はふっと笑った。
 白い壁に青い色。彼の青いジャケットと目が、歌うように動いた。
「お父さんはきっとエメラルドだね」

 小さな彼は立ち上がって缶を捨てると、じゃあねと去っていった。残された現状と、言葉を噛み砕く。
(エメラルド?)
 あの緑色のやつか。そんな知識しかなくて、どうにも歯痒い。エメラルド、翠玉、緑玉。でも、彼が言ったのは本当にエメラルドのことなのか。

 思わず思考に嵌っていると、メッセージが届く。開けば端的な命令。降谷さんだろう。指示された場所に行かねばと、立ち上がった。
 というか、小さな彼は携帯でラピスラズリを検索していた。自分もそうすればいいじゃないかと、エメラルドを検索した。
「……?」
 眉を寄せる。分からない。エメラルドの画像は出たし、何やら説明もあったが、知識が無いのでさっぱりだ。
(降谷さんに聞いてみるか?)
 あの人なら意味が分かりそうだ。そう思いながら画面を消して、指定された場所へと向かったのだった。


06/10 21:56
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