◎泉の乙女


レオアク


 ぱしゃり、空色の髪をした女性が泉へと入る。服は着たまま、そのまま進んでいく。ネックレスを揺らし、長い髪が水の中に広がる。女性は無言で泉の中央に立つとそのまま体を沈め始める。とぷ、とぷ、泉が波打つ。
「アクア?!」
 岸から声がして、アクアは動きを止める。そして立ち上がり、くるりと振り返ると金髪の青年が驚いた顔をして泉へと足を踏み入れたところだった。
「待ってレオン、あなたの服が濡れてしまうわ」
「だったらこちらへ戻ってきてくれるかい」
「分かったわ」
 アクアと呼ばれた女性はゆっくりと岸へ近づき、差し伸べられた手を取って青年、レオンの前に立った。
 レオンは驚いたよと安堵の表情を見せる。アクアは水浴びしたかったのと苦笑した。
「水浴びか、それなら邪魔をしてしまったね」
「ええ、でもいいの」
 アクアはそう言ってレオンの頬に手を当てた。ひんやりとした肌にレオンが瞬きをする。
「汗をかいているわ」
「驚いたからね」
 レオンが目を伏せ、驚いたんだと繰り返す。
「まるで水に飲み込まれていくようだったから」
 そして己の頬にあったアクアの手に手を重ねる。僅かに震えているその手に、アクアは痛みの表情を浮かべた。
「ごめんなさい。怖い思いをさせてしまったわ」
「うん。もう、あんな深くには行かないでほしいな」
「約束するわ」
 アクアはそう言うと、部屋に戻りましょうかと言った。水浴びは良いのかとレオンが言うと、もういいのとアクアは言った。
「それよりも一緒にいましょう。その方が、きっと楽しいわ」
 そうだね、とレオンは微笑み、繋いだ手に僅かな力を込めた。アクアはそれを感じて笑う。
「暖炉に当たれば濡れた服も乾くわ」
「着替えてしまうといいよ。風邪をひくからね」
「それもそうね」
 そうして二人は泉から立ち去ったのだった。



04/16 19:56
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