◎小さな友達@中原+宮沢


中原+宮沢


 すたすたと彼にしては珍しく、器用に歩いている。手に酒瓶は無い。代わりに詩集があった。読み過ぎて、持ち歩き過ぎて、ぼろぼろのそれを手に、彼は歩く。その足音は重く、どんよりとした雲空のようだ。当然、表情は固い。
「何してるの」
 そう問いかけられて、彼はピタリと止まった。彼、中原は、問うた少年を敬愛している。宮沢は薄く微笑んでいた。
「何か探しもの?」
 手伝うよ。そう言われて、中原は果てと頭を傾ける。言われてみれば何かを探していた気がする。気はするのだが、思い出せない。
 それは厄介だね。宮沢は何でもないように告げた。
「それならその詩集を開いてみてよ」
 ヒントがあるかもしれないよ。そう言われて、中原は詩集に視線をやった。視線をやって、手を上げて、詩集を前にして、止まった。開く気にはなれなかった。
「これは俺の手にあるものじゃない」
 そうだろうと中原は宮沢を見た。しかと見た。宮沢はぱちりと瞬きをしてから、ふうわりと笑った。
「キミは本当に優しいね」
 その詩集は預かっておくよ。そう言って宮沢は中原の持っていた詩集を受け取ると、サッとその場から立ち去った。
 残された中原はぽつんと独りで立っている。だが、気分は上を向いた。どうしてか、良い事をした気がした。
 中原はそうしてくるりと踵を返した。無性に酒が恋しかった。

 そうして、そうしましてその詩集は、宮沢の本棚に収まったのだった。



09/25 22:17
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