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 2023.05.05.Fri:22:01

crom版ワンドロライ提出作品『偽弁を誘う』
使用お題:色彩/神秘的
CP:チリオモ
タイトル:偽弁を誘う
注意:オモダカに秘書がたくさんいる。
#cromワンドロライ
30分


 オモダカの立つ姿を神秘的だと云う人がいた。

 チリは面白くないなあとぼやく。オモダカは構いませんよと笑っている。
「誰が神秘的やねん。オモダカさんかてフツーの人間やろ」
「まあ、ありがとうございます。チリは優しいですね」
「ハイハイ。ほな、これ資料な」
「あら、充分です。こんなに集めていただけるとは」
「心にもない事を言わんといて」
「ふふ。チリが優秀だということですよ」
「あっそ。ポピーのお迎え行ってきましょか?」
「いえ、今日はお家の方が行くそうです」
「了解」
 ふうっとチリは息を吐く。オモダカはテキパキと資料を読んでいた。オモダカの執務室は大きい。何人かの秘書がせっせと働いている。秘書の執務室は別にあるが、オモダカが人払いしない限りは、秘書たちは同じ部屋にいた。
 なぜなら、オモダカがとんでもなくお転婆だからである。
「……少し気になる事がありまして」
「部下を動かしてな?」
「いえ、この目で見たいので」
「オモダカさん、目の前のサイン必要な書類の山見えてます?」
「パルデアの光ですので」
「それでオーケー通るんはチャンピオンクラスの子たちやで」
「ただのトップですのに」
「ははは、オモダカさん、トップにただも何もあるかいな」
「チリは真面目ですね」
「おー、チリちゃんにそないなこと言うんは総大将くらいやで」
「では!」
「ダメや」
「むむむ」
 オモダカは不満そうな顔をしながら、サインが必要な書類に手を伸ばした。白い紙に褐色の肌の色彩が目に毒だ。もし、この人が白い服を着たら、とチリは思う。ウェディングドレスとか、絶対に似合う。
「チリ、そういえば新しいチャレンジャーですが」
「なあオモダカさん、ちゃんと仕事に集中しような? チリちゃん書類待ちなんやけど」
「秘書の皆さんとお喋りしててもいいんですよ」
「仕事時間に無駄なことはしません」
「チリは真面目ですね」
「おー、堂々巡りやん」
 神様よりも人間らしくて、人間よりもパルデアを愛し過ぎている。オモダカの優しさを、他人は知らない。パルデアの民ですら、分からない。
 オモダカは踏み躙られることを望んでいる、大輪の花だ。花弁を散らし、蜜を地面に叩きつけられる。そうされてこそ、パルデアの大地に必要な光が生まれるのだ。
 トップチャンピオンとはそういうこと。通過点に過ぎないと、彼女は本気で思っている。
 危うさがあるとは思う。だが、それよりもオモダカはあまりに健全だ。強くあれ、なんて、ポケモントレーナーなら当然なのだから。他人に、強くなれ、なんてトレーナーなら誰もが思うのだから。
 パルデアの宝を、オモダカは光だと言う。それが、エリアゼロの遺物に似てると、誰かが言っていた。あれは"かみ"だ。誰かが言った。
 ねえ、そのポケモン、どこで見つけたの?
 うるさい。チリは不快だった。チリの知らないオモダカなんて、山ほどある。チリはオモダカの一側面しか知らない。チリにとってオモダカはトップチャンピオンである。それだけ。建築家とか、理事長だとか。知らない。知らないったら、知らない。
 チリにとって、オモダカは誰よりも強い"ひかり"だから。
「チリ、つまらなそうですね」
 そんなあなたに良い知らせを。オモダカはにっこりと笑う。
「全て完璧な書類でした。私も然るべき部署へ行きたいのですが」
「はあ、何の騒ぎを起こすつもりなんです?」
「少し、面白そうな案件がありまして」
 面接してくださいますね、と。チリは仕事やんと呆れていた。だが、チリにとって面接は面白い。だって、オモダカの理想に沿ってふるい落とす作業は、あまりにも他人の色が見える。
 色彩豊かなおんな達だ。チリとオモダカは並ぶ。
「さて、チリ。いい事を教えましょう」
 面接室の前で、オモダカはくるりと振り返る。

──ポケモン強奪事件が起きているんですよ。

 微笑み。聖母。神々のひかり。光背の中で、彼女は咲(わら)っている。
「そら、どーも」
 いい事を聞いた。



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