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 2023.01.29.Sun:21:39

こりゅ蜂版ドロライ提出作品『夏と桜』
使用お題:顕現
CP:こりゅ蜂
タイトル:夏と桜
注意:審神者が出てきます。
#こりゅ蜂版ドロライ


 夏の景趣。永遠の夏。審神者は夏が好きらしい。
 新春のシール交換は誰にするんだろう。本丸の刀たちは話題に出さないものの、審神者の動向を気にしていた。交換期間は今日までだ。まさか、忘れているのだろうか。蜂須賀は心配になった。審神者なら忘れることはない。とは、信じている。だが、あまりにも普段通りだから、近侍の蜂須賀は見守る他なかった。
 そして、審神者が一度、席を立った。どこに行くんだい。蜂須賀が聞くと、野暮用だよと言ってどこかへ消えた。
 この本丸は広い。どこに何があるか、を完全に把握できているのは審神者だけだ。初期刀の蜂須賀にも、初鍛刀の秋田にすらも、わからない。
 戻ってきた審神者は刀を抱えていた。蜂須賀、と声をかける。これから顕現していただくのだ。審神者の言い分に、唐突過ぎると思いつつも、蜂須賀は近侍として、その刀の励起に立ち会うことにした。
 どこか、懐かしい。これは夏の香りだろうか。それとも、その刀から溢れる何か、だろうか。
 顕現、励起、言い方は何だっていい。神下ろしだと、審神者は言っていた。それが正しい感覚なのか、蜂須賀はわからない。
 そうして清められた部屋で、審神者がかかげた刀が光る。桜吹雪。夏の匂い。その差に、くらりと眩暈がした。
 そこには青年がいた。太刀、小竜景光。演練や万屋でしか見かけなかった刀が、そこにいた。目が合う。蜂須賀はとくんと胸が高鳴った。それが何なのか、蜂須賀にはわからない。だから、微笑んだ。
「近侍の蜂須賀虎徹だ」
「そう、えっと、小竜景光だよ」
 小竜はすこし照れたように頬を掻いた。傷になるんじゃないか、蜂須賀はそう思って手を伸ばしかけた。審神者は励起って大変だなあとぼやきながら、蜂須賀に後を頼んで、ふらふらと自室に戻った。おそらく霊力を多く使ったのだろう。この審神者はあまり霊力の高い人間ではなかった。
「ええと、本丸の案内をするよ」
「ありがとう。何て呼べばいいかな」
「蜂須賀でいいよ」
「じゃあ、俺は小竜でいいよ」
 借りてきた猫のような小竜に蜂須賀は何だか親近感が湧いた。結局、人の身に慣れないのだ。それは彼が刀である証明だった。
「まずは小竜の部屋に案内しよう。新人は新人部屋に一旦入るんだ」
「他に新人はいるのかい」
「いないよ。今はね」
 安心した様子の小竜に、一人の時間があってほしい性格なのだろうかと蜂須賀は考える。ならば、審神者に彼は一人部屋にしてほしいと頼まねばならない。こんなことを頼めるのは初期刀か初鍛刀ぐらいだからだ。
「ああ、そうだ」
「ん?」
「これからよろしく頼むよ」
 そう言って手の伸ばす。小竜はぱちぱちと瞬きしてからその手を取った。そしてうやうやしく、手の甲に口づけした。
 蜂須賀が驚きで固まると、小竜は柔らかく笑んだ。
「これからよろしく」



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