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 2020.05.09.Sat:22:00

kbnzドロライ企画様へ提出作品
お題:お家デート
ジャンル:二次BL
CP:kbnz
タイトル:家族
付記:nzさんのタチフサグマの子(♀)が出てきます。
#kbnz_weeks


 暑い夏の日差しを避けるように、キバナは小さなネズの家にやって来た。手土産に用意したのは、他の地方から取り寄せたとびきりのお酒だ。
 からん、扉を開く。ネズはいるか。玄関の見張り番をしていたカラマネロに問いかけると、奥だよとでも言うように手を伸ばされた。

 廊下を進むと、とびきり古びた扉がある。開けば、空の暖炉の前、絨毯でごろごろと転がるジグザクマと、それを見守るタチフサグマがいた。
 娘が生まれてからずっとああなんです。ネズがそう笑った。
「娘?」
「そう、そのジグザクマは、おれのタチフサグマの娘らしいんですよ」
 ポケモンセンターで血液検査をしたので、確定です。ネズはクスクスと笑っていた。
 とりあえず手土産のお酒を冷蔵庫に入れてから、ジグザクマと戯れるタチフサグマを見つめた。相手は、と聞くと、特定はしてませんよと返ってくる。
「ジグザクマが健康であることが第一ですから」
「でも、育児放棄じゃないのか」
「タチフサグマがおれを頼ったんです。そもそも、タチフサグマは育児放棄をしてませんよ」
「いや、だから、相手のことだって」
「いいんですよ、べつに、誰だって」
 ネズはしゃらくせえと快活そうに笑っていた。
「そこに生きる"いのち"を見ないで何を見るっていうんです?」
「……それも、そうか」
 そういうもんです。ネズは穏やかに言う。奥の部屋から、かたかたと音がして、あれとマリィが顔を出した。
「キバナさん来とったと?」
「今、来たところですよ」
「そう。マリィはもう出かけるけん、買ってきてほしいものとか、あったらメッセージ送って」
「わかってますよ」
 じゃあね。そうマリィは家を出ていく。キバナは行ってらっしゃいと玄関先まで見送った。
 リビングに戻れば、ころころとキバナの足元にまで赤ん坊のジグザクマが転がってきた。そろそろミルクの時間ですね。ネズがポケモン用の哺乳瓶を片手に言う。
「用意ができたら捕まえてください」
「えっ」
 そのままミルク作りに行ったネズに、キバナはどうしようと足元でふんすふんすと匂いを嗅いでいるジグザクマを見つめた。
 ふと視線をやれば、タチフサグマは離れた場所からジグザクマを見守っている。ズルズキンは昼寝をしていて、スカタンクは日向ぼっこをしていた。
 視線をジグザクマに戻すと、まだふんすふんすと匂いを嗅いでいる。
「オマエ、好奇心旺盛なのか?」
 仮にも初めて見るトレーナーだろうに。そんな、警戒心が薄くて大丈夫なのか。そう言って持ち上げると、ジグザクマはきゃらきゃらと笑っていた。警戒心なんてものは1ミリとて無いらしい。
「キバナ、ジグザクマをこちらに」
「お、おー?」
 ジグザクマをネズに渡すと、ネズはいい子ですねと穏やかに言いながら哺乳瓶を傾けた。
 とんとんと飲ませると、お腹が満たされて眠くて丸くなったジグザクマをゆらゆらと揺さぶる。とろんと寝てしまったジグザクマを、タチフサグマの前で寝かせると、タチフサグマはジグザクマを守るように寝そべった。

 淡いミルクのにおい。抱き上げた時の、赤ん坊の柔らかな身体。まるで別世界に来たみたいだと、キバナはきゅっと目を細めた。
「ネズは、いいお父さんになれるな」
 おや、とネズは目を見開いた。
「おまえのことだから、嫌がるかと思ったのですが」
「ポケモンには嫉妬しません」
「そう。まあいいですけど」
 おまえこそ、良い父親になりそうじゃあありませんか。そんな独り言に、まさかとキバナは笑い飛ばした。
「オレさまはネズとしか結婚しないもん」
「養子という制度がありますが?」
「それはそれ、これはこれ」
「都合が良すぎます」
「いいだろお」
 ネズとオレさまで、二人のパパだ。そう笑うと、ネズは仕方ないやつですねと呆れていたのだった。



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