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 2020.05.02.Sat:20:57

kbnzドロライ企画様へ提出作品
お題:虹
ジャンル:二次BL
CP:kbnz
タイトル:虹の根
付記:風邪ネタです。
#kbnz_weeks


 光の反射だとか、雨上がりの現象だとか、どうでもいい。ただ、虹のたもとに在るという宝物が、知りたかった。

 アラーム音がする。虹の夢を見た。ネズはずるりと起き上がった。熱っぽさと、気だるさと、あとはなんだか頭が痛い。
 風邪だな。ネズは冷静に判断して、ベッドサイドのチェストから出した市販の風邪薬を、空っぽの胃袋に、噛み砕んで流し込んだ。
 これがマリィだったらちゃんと朝食を食べさせるものだが、今のマリィは泊まり込みでワイルドエリアに武者修行中だ。シーズンじゃないとできんことをやるけん。そう意気込んでいたマリィの姿はやけに眩しかった。
「おはよー」
 ノック音もせずに、がちゃりと扉を開いてキバナが顔を出す。ネズは、あ、と声を上げると、罰が悪い思いをしながら風邪薬をチェストに仕舞った。キバナが、そうか風邪薬はそこだったかと目元を押さえていた。
「あー、朝食とか。軽いの作ったから食べようぜ」
「食欲無いんで」
「せめて胃が荒れるのは防ごう」
 そもそも、とネズはベッドから出ながら言った。
「おれが風邪だって知ってたんです?」
「うん。だって、めっちゃ魘されてたし」
 なあジュラルドン。そう相棒に同意を求めては、ジュラルドンは丁寧に頷いたのだった。

 朝食は麦粥だった。つけあわせにと、ナナのみのペーストやモモンのみの皮を剥いたものなどが出てくる。どれも一手間加えられていて、丁寧な男だこととネズは息を吐いた。その息は熱く、まだ熱は下がっていないようだった。
「食べたらシャワー浴びてから寝たほうがいいぜ。昨日、シャワーも浴びずに寝ただろ」
「バレましたか……」
「タチフサグマが、無言でバスルームを指差してたもん」
「おれが言うことを聞く人間をよく見分けてますね」
 流石はおれのパートナー。そう惚気れば、言ってろとキバナは珍しく荒々しく息を吐いた。そちらの息には怒りがこもっている。
 久々に怒らせたようだ。ネズはふむと回らない頭で考える。今回ばかりは彼の言うとおりにすべきだろう。キバナの背後でジュラルドンと並んでこちらを見るタチフサグマに、ネズは早々に敗北を認めた。
「皿洗っておくから」
「助かります」
「バスタオルと着替えは置いといたぜ」
「そこまでするとは……」
「風邪っぴきは寝るのが仕事!」
 ほらほらと急かされて、ネズは食べ終わった食事の後をそのままに、バスルームへと向かった。シャワーだけだが、体の隅々まで洗ってから出ると、カラマネロがねんりきでそっとドライヤーを差し出してきた。ありがとうございますと受け取って、長い髪を乾かしていると、キバナがお互いのポケモンたちに朝食を出している声が聞こえてくる。

 平和だな。自分が風邪さえ引いていなければ。

 ネズはずっと鼻を吸った。しっかり乾かしてから脱衣所を出ると、朝食を食べ終えたポケモンたちがそれぞれリラックスして過ごしていた。
 キバナが顔を上げる。無言でこくんと頷く辺り、相当風邪のことを気にしているらしい。
「とりあえず寝ておくこと!」
「分かりました」
「でもまあ、風邪引けるだけ良かったのか」
 はて。ネズはこてんと頭を傾げる。キバナは本当に頭がやられてるなと、くすくす笑った。
「ジムリーダーだったら、風邪なんて引いてられないだろ」
 きっと、今までの疲れが一気に来たんだ。そう言われても、マリィにジムリーダーの席を譲ってからもう数カ月は経つ。今更ですかねえとネズは不思議に思う。しかし、重荷を降ろした感覚が無いとは言えなかった。
「今日のオレさまはオフだから、家にいるからな!」
 看病してやると燃えるキバナを、はいはいと流しつつも、良い人が過ぎるとネズは心配になった。

 雨上がりの、虹のたもとのような男。ネズにとって、キバナはそんな男なのだと、痛感した。



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