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 2020.04.03.Fri:18:58

キバネズ強化期間企画様へ提出作品
お題:正反対なふたり
ジャンル:二次BL
CP:キバネズ
タイトル:ふたり分の幸福
付記:モブ記者がいます。リリカルホモです。
#241061_fes
#241061_bingo


 ふたりはどこまでも正反対で、だからこそ、ふたりは未来を見据えていられた。凸凹が噛み合わったからこそ、ふたりで笑いあえた。

 全然違うと疲れないんですか。そんな質問をされたことがある。ええ全く。ネズは艷やかに笑ってみせた。違うからこそ、互いを尊重出来るのだ。

 真反対じゃないですか。そんな質問をされたことがあった。全くそうだな。キバナは爽やかな笑みを返した。真反対であることに、なんの不満もないと。

 喧嘩しないんですか。ふたりでいた時、そう問われた。キバナとネズは目を合わせてから、もちろんと息を吐いた。
「沢山、喧嘩しますよ」
「昨日はミルクが先か後かで喧嘩したんだ」
 他愛もない喧嘩を語ると、記者は仲が良さそうで何よりですと苦笑した。

 きっと、彼らは正反対なふたりの、歪な隙間を狙っているのだろう。そんなもの、沢山ある。あった上で、理解できないなりに、ふたりは並んで歩いているのだ。
 胸を張って、傷だらけの心を抱えて、それぞれの道を、混じり合わせながら歩く。

 そして、それが苦痛だろうと、他からは見えるらしい。キバナはネズの手を握りながら、穏やかに言う。
「オレはどんな時だろうと、ネズがいたら強くなれる気がするんだ」
 言葉を重んじるネズにだからこそ、キバナははっきりと口にする。ネズもまた、同じだった。
「おれも、おまえがいるから呼吸ができるんです」
 お揃いですね。ふたりが笑い合うと、パートナーのジュラルドンとタチフサグマが楽しそうに体を揺らした。その祝福に、ふたりは感謝した。この世は春だ。キバナとネズは手を結んだ。


・・・


 夕暮れ時のスパイクタウン。小さなネズのねぐらに、ただいまとキバナが帰ってくる。とはいえ、キバナもまたナックルシティに家を持っている。どちらかの家にふたりが揃うように。大切な街から離れないように。
 それって、通い婚やけん。住処を分かち合ったマリィは笑っていた。通い婚なんて、よく知っているね。ネズがそう笑っていたのを、キバナはよく覚えている。
 ちなみにまだ籍は入れていない。キバナはプロポーズのタイミングを見逃してばかりだった。何せ、目が回るほど忙しいのだ。それは言い訳にしかならないのだが。
「今晩はシチューですよ」
「楽しみ。最近、作らせてばっかりでごめんな」
「研究の山場なんでしょう。帰ってくるだけ上々ですよ。おれの方こそスパイクタウンから離れられなくてすみません」
「ネズだってライブが詰まってるんだろ、お互い様だよ」
「それもそうですね」
 手洗いうがいをしっかり行ってから、シチューの仕上げとポケモンフーズを協力して揃えた。ふたり分のパートナーだけあって、フーズの消費はとても激しい。今度、休みを見繕って買いに行かないと。キバナがうんうんと唸ると、当面はマリィに頼みますかねとネズが提案した。
「他の家事で外に買い物に行く暇がありませんし、今はオフシーズンなので……とはいえ、修行したいマリィには負担ですかね」
「かもな。うーん、でも、一度話し合ってみようぜ」
「ではそのようにメッセージを送っておきます」

 そうして席について、食事が始まった。温かなシチューはモーモーミルクがたっぷり入っている、家庭の味だった。あまり凝ったものは作れねーんですよ。初めの頃はそうぼやいていたネズだったが、どんな料理も美味しい美味しいと食べるキバナに、ぼやくのをやめた。

「研究が落ち着いたらオレさまが作るから」
「楽しみにしてますね」
「すっごい料理なんて作れないけど、ネズの舌に合う料理にするから」
「おれに無理に合わせることはありません。おまえの飯が食べたいです」
「そお? ありがとう」
「お礼を言われるようなことじゃねーんで」
「オレさまが言いたかったの」
 ポツポツと喋りながら食べていると、ふたりはすっかり腹が満たされた。ポケモンたちもフーズを無事食べたようだ。

「おれはもう入ったんで、シャワーどうぞ」
 それに、どうせまたナックルに戻るんでしょう。そう言ったネズに、当たりとキバナは眉を下げた。
「折角帰れたのに、バタバタしててごめんな」
「謝ることじゃあないですよ」
「そうだけど……気持ちの問題ってことで」
「そうですか」
 キバナがバタバタとシャワーを浴びる間に、ネズはキバナのポケモンたちの体調をチェックする。毛艶や錆、ありとあらゆるものがネズのポケモンたちとは違うが、いつの間にか体調のチェックができるぐらいに仲良くなっていた。

 ところで、実は明日の午前中のネズはオフなのだ。キバナに付いてナックルの自宅に帰りますかね。そうぼやいて、手早くスマホとボールを揃えたのだった。頭の中にナックルの自宅が浮かぶ。きっと掃除と洗濯をすべき状況だろう。

 そういえば、パパラッチが怖くなくなったのは、いつからだったか。ネズはふと、当たり前のように変装も何もせずにキバナとナックルに帰る予定を考えつつ、食器洗いをしながら思った。

 キバナがあまりに堂々としているからだろうか。否、ネズもまた、最初からそうだった。

 ただ、自分を肯定する他人がいること。それだけで人は強くなれる。それがたとえ正反対なふたりだとしても。ネズは擽ったいなと眉を寄せた。
 悪い気持ちではなかった。
「ネズ! シャワーありがと!」
 あれ、外に出るのか。姿を見てそう驚くキバナに、ネズは返した。
「ナックルに帰ろうと思いましてね」
 どうですか。そうニヒルに笑うと、キバナはほんのり耳を染めて、なんかいいなあと柔らかく笑った。
「ネズがオレの巣穴を寝床と認めてくれてるみたいだ」
「みたい、じゃなくて、そう、なんですよ」
 言ってるこっちが恥ずかしい。そうネズが呟くと、ごめんなとキバナは目を垂らしたのだった。



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