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 2020.04.01.Wed:21:31

キバネズ強化期間企画様へ提出作品
お題:愛してるのエール
ジャンル:二次BL
CP:キバネズ
タイトル:愛してるのエール
付記:チャンピオン(色々不明)とホップとルリナが出てきます。
#241061_fes
#241061_bingo
企画開催おめでとうございます!


 エールをあげたいオーディエンスはいた。愛してるのエールを送りたい人たちがいた。
 ネズは決して博愛主義者ではないけれど、自分の音楽を聴いてくれるファンのことを、真っ当に愛し、感謝し、アーティストとしてやれるだけのことをやりたかった。だから、そうして音楽活動を続けてきた。

 だが、ここに来てネズは困った。本当に愛したい人が現れたのだ。名をキバナという。ドラゴンストーム。ガラルで知らない人などいないであろう、有名なジムリーダーだ。気さくで温和な性格は、人好きで、なのに意外と恋愛の話題が上がらない。
 おそらく、あの穏やかな性格が原因なのだろう。バトル中は獰猛だが、普段は温和で案外人との距離をきちんと考えている。それもまたネズには好印象だった。

 だからこそ、ネズは戸惑った。キバナに恋をするなんて、真逆と世界がひっくり返るようだった。
 浮いた話の一つもない。彼はライバルを倒すことだけを考えていた、ように自分を作り上げていた。実際はジムのことも、ガラルの未来もよく考えている人の出来た青年だ。

 好きになるなんて、身勝手だろう。ネズは思う。自分は片思いだが、それなりに恋愛をしてきた。故に、恋愛とはエゴイスティックなものだと知っている。好きなひとを自分のものにしたいだなんて、エゴ以外の何者でない。
 ネズはそんな自分に嫌気が差して、片思いのまま、恋は一つとて実らせなかった。

 思えば、それはそこまでの想いだったのだろう。キバナに抱いた恋愛感情はどうしたって捨てることができないような、甘く柔らかなものだった。ネズの知る、心を刺すような痛みを伴う愛とは全く違った。
 それもこれも、キバナのあの温和な性格が影響している。いつでも姿を見れば穏やかに話しかけてくれる。目の前で、穏やかに笑ってくれる。それが、ネズだけのものではなくとも、ネズには充分すぎる行為だった。

 恋をした。ネズはどうすればいいかを考える。愛してるのエールはもうファンに捧げてしまった。ならば、自分はあと何を捧げれば、彼への愛を形にできるだろう。
 これはエゴだ。ただ、思いを伝えたくて、でも伝わってほしくない。そんなただ人たるネズのエゴだった。

 そんな中で新曲を作った。甘酸っぱい恋心をロックで覆い隠した楽曲。だが、デモを聴いた人は皆して、いい恋をしてるねと笑ってくれた。いい恋なものか。ネズは少しばかり不貞腐れた。

 新しいアルバムは、ネズの心境の変化を見抜いた監督がアドバイスしてくれた、甘やかな恋をロックに落とし込んだ音楽だった。間違いないよ。音楽仲間の彼らは言ってくれた。
 その予言の通りに、アルバムはたいそう売れた。


・・・


「なあ、ネズ」
 声をかけられる。トーナメント戦のために来た控え室で、順番を待つキバナが声をかけてきた。
「なんですか」
 動揺を悟られぬようにぶっきらぼうに言うと、あのさと項あたりを触りながら、気まずそうに言う。
「もしかして、ネズって好きな人、いるのか」
 おまえですよ。なんて、言えるわけがなかった。全てを覆い隠して、ハハと笑ってみせた。
「居ますよ」
 好きな人が、いる。キバナはそれを聞いて、傷ついたように眉を下げた。これから出番だというのに、そんなメンタルで大丈夫なのか。そう茶化したかった。そんなことを出来る余裕はなかった。
「あのさ、バトルが終わったら、伝えたいことがあるんだけど」
「はあ」
「中継画面見ててくれよ!」
 そうして、キバナは2回戦のチャンピオンとのバトルに向かった。


・・・


 キバナはチャンピオンに負けた。でも清々しい顔をしていて、全力のバトルをしたことがすぐに分かった。カメラが握手をする二人を追いかける。
 すると、くるりとキバナがカメラを見つめた。
『言いたいことがあるんだ、少しだけ時間がほしい』
 チャンピオンはサムシングポーズで承知していた。何事だとスタジアムが騒ぎの後、静まり返った。
『オレ、好きな人がいるんだ。その人に、今ここで告白したい』
 こんなこと、嫌がる人だろうけれど。キバナは切実な声で言った。
『オレ、ネズが好きなんだ! たとえ、ネズに他に好きな人がいても、譲れないぐらい、オレはネズが好き!』
 公開告白に、控え室のネズはぽかんとした。ぽんぽんとホップに背を叩かれる。ネズは信じられない気持ちで中継画面を見つめていた。
『愛してるのエール、オレにも送ってほしい。オレがオマエの一番のファンになりたいよ』
 ルリナがどうすんのよと言いながらも、ネズを引っ張る。ホップもまた、背中を押した。


・・・


 皆が息を潜めたスタジアムに、ネズは向かう。チャンピオンは一歩下がり、にこやかに笑っている。緊張した面持ちのキバナを笑うことはできない。ネズとてそうだった。
 とうとう目の前に立った。彼を見上げる己はきっととても小さく弱く見えることだろう。
「おれのこと、本当に好きなんですか」
「うん、本当に、好きだ」
 そう。ネズはならばと震える声で告げた。
「おれも、おまえが好きなんですよ」
 知らなかったでしょう。そう微笑む。感情が整理できない。涙がぽろりと落ちた。キバナが信じられないと静かに驚いてから、ぎゅっとネズにハグをした。
「信じられないぐらい幸せだ!」
「おれもですよ」
 ワッとスタジアムが沸いた。おめでとう、そんな声が四方八方から投げられる。チャンピオンがキバナとネズに一度観客にむけて礼をさせてから、控え室に戻させてくれた。


・・・


 控え室にホップと入れ替わりに入ると、ルリナがおめでとうと祝福してくれた。
「結婚式には呼んでよ」
「気が早いって」
「あら、別れるつもりなの?」
「そんなわけない!」
 絶対に幸せにする。そんなキバナの言葉に、ネズは未だ信じられないようなふわふわとした頭で、ただただ、彼の手を握っていた。


・・・


 その後、ネズとキバナの交際は大々的にガラルのニュースに取り上げられた。その番組内にて、仲間内ではバレバレだったとルリナが語るのを、キバナとネズはテレビ画面越しに驚いたのだが、それはまた後日の話だった。



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