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■ 2020.03.28.Sat:21:36
kbnzドロライ企画様へ提出作品
お題:愛の形
ジャンル:二次BL
CP:キバネズ
タイトル:バベル
付記:夢の話です。
#kbnz_weeks
XXを愛した形跡を、辿る。
2.ハニームーンとピタゴラス
夜が憂鬱になったのはつい最近だ。キバナは息を吐いた。現チャンピオンに呼ばれたトーナメント戦の控え室にて、キバナはぼんやりとしている。
ルリナがどうしたのよと声をかけてきた。バトルに負けた彼女は、それでもバトルをやり切ったと胸を張れる出来だったらしい。
「どうしたのよ、そんな辛気臭い顔をして」
「あ、わるい。そんなつもりなかったんだけど」
「分かるわよ。で、何が原因?」
キバナは迷った。眠れないなどと相談しても、専門家ではないルリナを困らせるだけだろう。なので、言葉を濁そうと決めた。
「あー、なんか最近寝付きが悪くてさ」
嘘は言っていない。ルリナも気にすることなく、絵に描いたような健康優良児には珍しいわねと言うのみだった。
「オススメのヒーリングミュージックでも貸すわよ」
「いいのか?」
「それぐらい構わないわよ。今度送るから」
じゃあ、そろそろ行くから。そう言ってルリナは控え室から出て行った。
・・・
そこは楽園である。何の苦もなく、責もなく、ただただ平面的な楽園がどこまでも続いている。
だが、そのに蜃気楼の塔が生まれた。
人々は塔を登る。導かれるように、彼らは登る。天辺は見えない。塔に登った人はそのまま戻ることがなかった。
己はどうしたいのだろう。考える。艷やかな楽園の草木のにおいが鼻をかすめる。ここには苦も無く、責も無く、常世の楽園が広がっている。
ここは春だ。ならば、塔の上はどのような景色なのだろう。
そう思うのに、蜃気楼の塔にはまだ登れそうにない。
最後に音楽が聴こえた。どこの地方の言葉だろうか。分からなかった。ただ、胸が満たされるような歌声に、聴き惚れた。
・・・
「ネズか?」
思わず声をかけると、おやと目を見開かれた。
場所はナックルの総合病院のエントランスである。知人を見つけたので話しかけてしまったが、冷静に考えるとミスとしか言いようがない。
「おまえも病院ですか。健康優良児かと思ってたんですけどねえ」
「オレさまもそう思ってたんだけど、最近世話になるようになったんだよ」
「そうですか、まあ、互いに良くなるといいですね」
「ネズは何でここに?」
「スパイクタウンには総合病院が無いので」
「そっか」
どのような不調なのか。キバナは聞こうとして躊躇う。聞くならば、己の不調も話さねばならないだろう。
それは何となく嫌だ。できるなら、ネズには心配されたくなかった。
「変な夢を見るんですよ」
は、と息が漏れる。ネズは淡々と語った。
「バカバカしい楽園で、おれは歌ってるんです」
その歌が、自分でも分からないのだと。
「言語が分からないんです。楽園には、言語など必要ありませんから、歌にだって、言語は必要ないのでしょうね」
「どうして、そこまで分かってるのに、まだ夢を見るんだ?」
「解決されない問題があるんです」
ネズは淡々としている。恐ろしいほどに冷め切った声だった。
「塔が現れたんです」
あの塔さえなければ、ネズは隣町の病院になど通わなかったと。
「死の塔です。そこに行った者は戻りません」
ゆらり、ネズの薄いエメラルドグリーンがキバナを見上げた。
ひゅっ、キバナは息を吸った。呼吸がおかしくなってしまいそうで、頭が沸騰しそうだった。
それほどまでに、その目はキバナの深淵を見透かしていた。
「おまえがその塔に登ろうとしてるんですよ」
残念なことに見捨てられなくてね。ネズはようやくそこで、声に痛恨の色を乗せた。