LOG

 2018.06.30.Sat:23:12

降風ワンドロ企画様へ提出作品
お題:梅雨
ジャンル:二次BL
CP:降風
タイトル:白
#降風ワンドロ
#降風ワン梅雨


 長い雨だった。

 風見は日陰に咲くアジサイを見つけた。道路沿いの民家に植えられたそれは、やけに枝を広げた木の陰に、ひっそりと咲いている。
 花の色は白かった。改良された品種なのだろう。どの花も白かった。真っ白をした手毬のようなその花を、風見は美しいと感じた。
 花嫁なのか、それとも着飾った少女達なのだろうか。花が身を寄せ合って咲き、玉のような彼女たちが一つの株にいくつか咲いている。

 アジサイは、雨の中が一番美しい。
 そのようなことを、以前、誰かが言っていた。風見は眉を寄せる。そのようなことばかりでは無いだろう。風見は思う。
 だって今は晴れ間だ。梅雨の中の、僅かな晴天の中で、白い花は美しく咲いている。


「家族だろう」
 雑踏の中心。その少し外れ。限られた接触の中、降谷は言った。何の話かと風見が軽く瞬きをすると、上司は人の顔をしていた。
「アジサイは家族の結びつきを連想させるらしい」
「何故それを?」
「色が変化することから、移り気などを指す場合もある」
「いえ、そうではなく」
「偶々だ」
 絶対偶々でも偶然でもない。風見は確信し、衣服等のチェックを決意した。何か仕込まれたのだろう。もしくは、見られたのだ。その青い目で、風見の姿を見たのだろう。
「戯れは程々にしてください」
「違う」
「じゃあ何だって言うんですか」
「……」
「言えないのなら、言わないでください」
「どうしてだ」
「私は部下だからです」
 そうでしょうと外を見る。見える雑踏には、数々の大人と、まばらな子供の姿が見えた。家族の形は決してひとつではなく、同じ家に住むのであろう人々が、親しげに隣を歩いている。
 望むことは許されない。なんてことはない。望むことは許される。得ることも許される。唯、並ぶことは。そう、望んで並んだその時に、自分は人を危険に晒すのだろう。

「家族とはなんだろう」
「よくご存知の筈でしょう」
「そうだろうか」
「貴方が守りたいものでしょうに」
「それこそ戯言だ」
「この会話こそが不必要です」
 ですがと、風見は言った。脳裏の白いアジサイには、シミひとつ無かった。
「理想郷なのかもしれませんね」
 誰もが望むものなのかもしれない。その言葉に、降谷は瞬きをした。無駄な話だったと、足を踏み出す。風見はまだ、そこにいる。

 無駄な話だったと、降谷は言葉にせずとも行動で示した。しかし風見にはそれが本心とは思えなかった。思いを馳せることを、彼が否定するとは思えなかった。尤も、風見はいつだって降谷の全てを知るわけがない。だから、風見は自分の知る限りで、そう判断した。

 長い雨が降る。徐々に雲が厚くなり、生温い雨粒が、ぽとりと溢れてくるようだ。あのアジサイは、美しいのだろうか。風見は脳みその遠いところに、そっと花の姿を描いた。

 水を喜ぶのは、渇いているからだ。笑うのは、満ち足りているからだ。だから、そうだ、きっと。

 風見はやはり、日陰の花が美しいと思った。



- ナノ -