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 2016.05.06.Fri:01:13

第63回フリーワンライお題で自主練させていただきました。
使用お題:こうかい(航海.後悔)/貴方のそんな声は知らない/御城/ブルームーン/切り傷
ジャンル:二次BL
CP:膝獅子
タイトル:うそつき
#真剣文字書き60分自主練編
裏表の話


 月下の城。
 いつもの出陣と同じだった。俺の練度を上げようとの主の意向で組まれた部隊には獅子王も居て、まあ頑張ろうぜといつものように軽く会話した。その時の獅子王が明るく、はつらつとしていたから、普段組まない刀達と部隊を組まれた事への不安が少しだけ晴れた気がしたのだ。
 しかしいつもと同じように時空を超える門を潜ると、意識はブラックアウトし、その次の瞬間には全く知らない景色の中で目覚めたのだ。

 どうやら船の上らしい。目が覚めてから一番に感じた波の揺れに意識がくらんだ。薄い霧が立ち込める船内を歩き回り、とりあえずはと甲板の上に出た。
 時間は夜、月明かりの中で木の板を踏みしめ、わずかな波の揺れに慣れていく。探索をしたが、船内には同じ部隊の刀はおろか、人っ子ひとりもいなかった。
 船の先に進めば、帆を張ったこの船がひとりでに進んでいることがよくわかる。風向きを見て、進路を見つめた。しかし、海の上にも霧が立ち込めていて、先の景色は全く見れそうになかった。
 風に吹かれ、波に揺られることしばらく。ふと、島影が見えて、目を凝らした。それら小さな島だが、なにやら屋敷が建っているらしかった。
 正しく言えば、それは屋敷というよりも西洋のおとぎ話の城だろう。短刀たちに与えられた絵本の中に、よく似たものを見たことがあった。

 船は城の船着場に着く。動かない船から降りて、古びたコンクリートの上を歩いた。暗い中、朽ちかけた階段を慎重に進めば、僅かに明るい広間へと出ていた。
 蔦の這う広間はとても人が住んでいるとは思えない。一部が朽ちて砂となった柱、クモの巣には埃が積もって家主が見当たらない。人間どころか、それ以外の生き物すらも居ないらしかった。

 気がつけば、広間には大きなガラス戸から月明かりが射し込んでいることが分かる。歩み寄り、油が足りない音を立ててガラス戸を押し開いた。
 外に出てみれば、大きな青い月が浮かんでいた。満月のそれは充分な光を城に届けている。ささやかな庭には広間にあった蔦とは違う蔦が這っていた。鋭利な棘のあるそれに眉を顰めると、どこからか生き物の呼吸が聞こえた気がした。
 音を探してささやかな庭を見渡せば、片隅に金属のアーチを見つけた。近寄り、錆びた門に手をかける。するとするり、棘のある蔦が門を被おうとする。それを跳ね除けるように強く門を押せば、錆びた門はがらりと崩れた。

 一歩、踏み入れれば霧が晴れていることに気がつく。青い月明かりの下、棘のある蔦に塗れた庭を歩く。本来ならば、此処は様々な花が咲き乱れる庭園なのだろうと想像できた。
 時折、緑の蔦を踏みしめながら進めば、また呼吸を感じた。足を速め、音へと進めば、甘い香りが漂ってきた。

 仄かな明かりの下、青い月の雫のような薔薇の花が無数に咲いていた。青みがかった紫の花、そのイバラの中に金色がいた。
 急いで駆け寄る。ふるりと睫毛を揺らして、獅子王は目を開いた。刃色の目が俺を映し、唇を動かす。

ひざまる

 微かな声でそう呼ばれて、その声色に悪寒がした。

 だって何だその声は。その優しい声は。その甘やかな響きは。愛でるような色は。囁くような慈しみは。一体それは何だというのだ。

 言いたい事を全て飲み込んで、唇を噛み締めて、彼の腕を掴む。棘があるのも気にせずに、イバラの中の彼を引きずり出す。青い薔薇が痛みに鳴いた。
 黒い戦装束は棘で引き裂かれ、その白い肌には血が流れていた。それでも構わないと、俺は後悔することなく彼を抱き上げた。

 庭を歩いていると、朦朧としていた獅子王は意識を取り戻したらしかった。瞬きをし、下ろしてくれと言う。その言葉通りに地面に下ろせば、彼は情けないと笑った。
「まさかこんな所に来ちまうなんてな。」
「全くだ。」
 さあ皆の元に帰ろうと、明るく笑った彼に手を差し伸べる。驚いたように目を丸くするが、俺は手を差し伸べ続けた。
「怪我をしているだろう。」
 抱き上げた方がいいかと問えば、膝丸の所為なのにと獅子王は笑ったのだった。


 結局、あそこは時空の狭間とかいうものらしい。
 庭から出ると本丸に戻っていた俺たちは大騒ぎしていた刀達に主の元へと連れて行かれ、何が起きたかを説明した。主曰く、夢幻の空間、電子の波の中、よく分からないが恐らくはシステムのエラーだろうとのことだった。
 とりあえず無事なら良かったと問題は片付き、軽傷の獅子王は手入れ部屋へ、全ての部隊は本丸に戻され、時空移動のシステムチェックが行われた。その為に本日の出陣と遠征は全て中止、本丸内で大人しく休暇を取れということになった。

 手入れ部屋の中、布団に寝転がる獅子王の隣に座る。何してんの、そう言われて、俺は彼の髪を撫でた。結っていた紐を解いた獅子王の、広がった長い髪はどこか艶やかだ。
「なあ、膝丸、どうしたんだよ。」
 少し不安そうな声に、俺は少し間を置いてから、答えた。
「やはりな。」
 俺の言葉に訝しむような顔をした獅子王に、俺はそうだなと続ける。
「あれは幻だろう。」
 あの声は青い月が魅せた まやかし だろうと。
 そうして結論付けた俺は、彼の髪から手を離したのだった。



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