LOG

 2016.01.25.Mon:01:11

第29回フリーワンライ企画様へ提出作品
使用お題:冬空に願う/雨の日の帰り道/占いなんて信じない/湯けむり/雪が降れば良いのに
ジャンル:オリジナル
タイトル:懐古なんてほどでもなく
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
おばあちゃんに会いたい話です。


 大粒の雨。天気予報なんて占いみたいなもんだよね、と思っていたのがまずかった。大雨に打たれながら走り、マンションに駆け込む。替えを用意していないスーツがびしょ濡れで、明日用のを急いで用意しないとならない。通販で売っていたらいいのに。
 エレベーターを待つのが面倒で階段を早足で上がり、鍵を取り出して自分の借りた部屋の鍵穴に差し込む。ドアを開いて玄関に足を踏み込んだ。ただいまと返ってこないことが分かりきった挨拶をして、電気のスイッチを押す。濡れたパンプスを脱いで玄関でストッキングも脱いでしまう。少しでも家の中が濡れなければいいとの考えだったが、廊下を歩いてしまえば同じだったので少し残念に思った。
 風呂に湯を張るスイッチを押して、水分を多く含んだ衣類を全て脱ぎ、自宅で洗えないもの以外は洗濯機に押し込んだ。ついでに朝脱いだ寝間着も洗ってしまおう。洗濯機を回してタオルと部屋着を用意して風呂のドアを開いた。むわっとした湯けむりに、外は寒かったのだと分かる。雨に打たれて冷え切った体では寒さなんて分からないものだ。
 ざっと体を洗って髪をまとめて風呂に浸かる。入浴剤を入れ忘れたと思いながらぼんやりと湯気で満たされた浴室を見渡し、ふと外を見た。ここは一目が気になる階ではないからか、窓は磨りガラスではなかった。気になる人はシートでも貼れということだろう。不親切だなと思いながらも手を伸ばして水滴を払えば、雨雲が浮かぶ冬の空が広がっていた。しかし雨はだいぶ弱くなっており、雨雲は途切れ途切れなものになっていた。切れ間から星が見える。冬の澄んだ夜空ならではだろうか、何だか星が綺麗に見えた。
 そこでふと思い出す。濡れた体、湯けむりで満たされた浴室、入浴剤の入っていない湯船、見えたのは多くの星が見える夜空。ここからは遠い、故郷にある祖母の家だった。あそこは雪が多く降る土地で、雪まみれになって学校から帰宅した私を、祖母は頃合いを見計らって用意してくれていた風呂に駆け込ませてくれた。感覚が失っていた指先がぴりりと痛む温かい湯。
 祖母は元気だろうか。最後に連絡したのはつい一週間前で、向こうはもう雪が降っていると教えてくれた。
(ここも雪が降れば良いのに。)
 雪なんて面倒なことこの上ないのにそう思った。懐かしさが私の胸の中に溢れていて、ガラスの水滴を払った指先が少し冷たかった。



- ナノ -