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 2016.01.25.Mon:01:06

第16回フリーワンライ企画様へ提出
使用お題:虫の音/転校生/夏は遠い/溶けた/指きりげんまん
ジャンル:オリジナル/ホラー
タイトル:物欲
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

ホラーです。そういったものが苦手な人間が書いたのであまり怖くないとは思いますが、一応ホラーです。
又、登場人物の性別はお好きにご想像ください。



 窓の外から虫の音がする。夏の終わりの音、そう、あの日もそんな音がしていた。

 初夏、私の住む田舎に双子の転校生がやって来た。双子なんて見たこともなかった私はとても印象的に覚えている。ハーフらしい二人は西洋人形のようなブロンドの髪をしていて、目は暗い青だった。とても綺麗だと囃し立てる皆に、一人は嬉しそうに笑い、もう一人は頬を染めて控えめに笑った。二人は性格が正反対とも言えて、一人は運動が得意で活発な性格、もう一人は読書が好きで穏やかな性格をしていた。私は二人とあまり仲良くはならなかったけれど、それなりに会話を交わしたことを覚えている。
 しかし夏休み目前の7月の半ば、双子のうち穏やかな性格の片割れが神隠しにあった。私はその話を人から聞いてとても驚いた。行方不明なのだと警察が動いていると人たちに繰り返され、私は驚いた。そして双子の残された片割れを見ると、血の気の引いた顔でただただ何もせずに席に座っていた。活発な性格だった片割れの面影の無い姿に、気を使って何人かが話しかけに行くものの、片割れは静かに一言二言話すだけのようだった。
 夏休みになり、私は偶然が重なって片割れと話すようになった。毎日のように神社で片割れと会話をした。とは言うものの、殆ど私の独り言のようなものだったけれど。しかし一週間もすれば片割れは元来の活発さをいくばか取り戻し、きらきらとした笑顔で居ないあの子との思い出を話してくれた。一緒に習い事をしたこと、積み木で遊んだこと。そして指切りをして、ずっと一緒だと約束をしたこと。私はそれを見聞きして、本当に片割れはあの子が好きなのだなと思った。
 それから又、一週間程経った頃だろうか。夏休みも残り一週間ほどだった頃、何時も通りに待ち合わせの神社の石段に座っていると、片割れが真っ青な顔で現れた。私はその顔にとても驚いて、どうしたのかと言った。すると片割れは何も言わずにかたかたと震えるものだから私は一先ず落ち着くように言って、石段に座らせた。そしてひとっ走り、近くの駄菓子屋でジュースを買って片割れに渡した。片割れはジュースを二口ほど飲むと、落ち着いたらしくゆっくりと話してくれた。曰く、不可解な現象が起きているのだと。
 双子で交代でしていた風呂掃除が、自分一人だけが当番になった筈なのにいつの間にか風呂が洗われており、家族は触っていないと言う、だとか。双子で一つの敷布団を使っていたが、もう自分一人の筈なのに入ると人肌に温かく、家族は布団を干していないと言う、だとか。私はそれを聞いて、嬉しくなった。何も怖がることは無いじゃないかと片割れに話しかけた。だってそれはまるで居なくなったあの子が片割れの側に居るかの様じゃあないか、と。
「やっぱり双子は揃うものなのだね」
 私がそう言うと、片割れは励ましてくれて有難うと少しだけ元気の出た顔で笑った。

 そしてそれから三日経った。夕方、夏も終わり、虫の音が辺りに広がっていた。林の中、木に反射して四方八方から虫の音が響く。
 片割れが溶けて、消えた。
 手のひら、木の柄の感触が。

 今日も虫の音が聞こえる。この音は夏の終わりの音だ。優しいよう寂しいような、それでいてひどく落ち着かない気持ちになる音。この音が、何十年経った今でも私は大好きだ。遠い夏の、穏やかな私の、私だけの記憶だ。



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