LOG

 2016.01.25.Mon:01:05

第13回フリーワンライ企画様へ提出作品
使用お題:サプリメント/手を繋ぐ/嫌いだなんてそんな/繋ぎ止める/満月の夜に/いつかどこかで
ジャンル:オリジナルNL(悲愛)
タイトル:未練
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負


 やけに明るい夜だ。満月が雲で遮られることなく夜を照らしている。星なんて一つも見えやしない。強すぎるほどのそれは今の私を感傷的にするには充分だった。
 片手には鉄分を補給するための栄養補助食品。それを口の中に入れると、机の上のコップを持ち上げてその中の水を口に流し込む。唇の端から僅かな水が伝う。少しコップを傾け過ぎたのだ。彼の人ならば、笑って指摘してくれただろうか。
 水とサプリメントを飲み込みながら、彼の人を想い出す。俺を嫌いになったのでしょうと悲しそうに笑った彼方に、私は何も言えなかった。否定したくても、そのあまりに辛そうな表情と声色に動けなかったのだ。いつも明るくて優しい彼方のそんな顔を私は見たことがなかった。
 嫌いだなんてそんなことは絶対に無かった。ただ、私は甘えてしまったのだ。彼の人の優しさに私は甘え過ぎてしまった。いつしか愛の言葉も優しい言葉も彼の人に言わなくなっていた。落ち度は完全に私にあるのだ。
 サプリメントの袋を見た。彼の人は私にとって補助食品なんかではなかった。絶対に必要不可欠な食事であり、精神的な支えだった。私はなぜあの時動けなかったのだろう。今の私も、あの時の私も、彼の人を繋ぎ止めたかったのに。
 彼の人はまた、いつかどこかでと消えた。私の目の前から綺麗さっぱり消えてしまった。いつの間にか住居を変え、携帯も変え、街を去った。私は彼の人とコンタクトを取る方法を全て失い、ただこうやって家の中に閉じこもっているしかなかった。だって、彼の人はいつかどこかでと言ったのだ。彼の人が確実に知っているこの家ならば、彼の人がいつか会ってくれるのかもしれない。
「女々しいなア」
 私は、また、いつかどこかでと言った彼の人の、その言葉を信じてる。



- ナノ -