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 2016.01.25.Mon:01:04

60分で文字書き遊び
※お題決めからアップまで全部60分以内でやってみた
お題:カゴ/ゼリー/花火/マリンスノー
ジャンル:オリジナル
題名:頑固
簡易プロット:籠の中のゼリーを食べながら花火をみて、マリンスノーに馳せる
追記:全てでかかった時間は47分でした


 ヒグラシの鳴き声が遠くなってゆく。日は沈み、世界はきみと僕だけになる。虫カゴに入れて持ってきたゼリーはブドウ味だった。ブドウの身がひとつ入った小さなゼリーは、僕ときみの手作りだ。花火の時間までもう少し。きみはそう言って楽しそうに笑った。

 ひゅるひゅると煙が上がる。横に流れた煙で、風向きは良好だと分かった。そろそろ夏の花火が始まる。
 大きな音。色は赤、青、緑、黄色。炎色反応による色を瞬かせ、大輪の花火が暗い夜空で咲いてゆく。桜より儚い花に、きみは喜んだ。一瞬が良いのだ、一瞬だからこそ何よりも美しいときみは饒舌に語る。僕は隣でブドウゼリーを食べながら、きみはやっぱり夏が好きなのだなと思った。限りある、毎年1度だけの夏をきみは大層好んだ。むしろ、生きている間二度とない1日の一瞬一瞬を、きみは狂う様に喜んだ。

 花火は続く。一度に二つ程打ち上げながら、長く花火は続いてゆく。光との対比で真っ暗な夜空に星は見えない。花火が少しの間休憩している時、ふと、きみが言った。
「深海の様だ」
 眉を顰めて(ひそめて)そう言ったきみは煩わしそうで、僕は笑む。きみは海の深いところを変化に乏しい場所と嫌っている。僕はゼリーの袋を畳み(たたみ)ながら、知らないのだなと思う。

 深海に降り積もる魚の死骸をきみは知らないのだ。それを餌に沢山の生き物が生きていることをきみは知らないのだ。そう、海では生き物が一瞬一瞬を生き、死に、プランクトンはマリンスノーとして美しい一瞬となり深海に降り積もる。だから僕は海を好むのだ。
「死んでも美しく成り得るのに」
 ぽつりと思わず零すと、きみは花火から目を逸らさずに笑う。
「そんなの陸でも空でも在り得るのに」
 それでもそこに、きみは海を入れないのだ。



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