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 2016.01.25.Mon:01:02

第10回フリーワンライ企画様へ提出作品
使用お題:閉じた瞼に夢の続きを、優しいおわり、知らないみち、憂鬱な月曜日
カテゴリ:オリジナル
題名:懐古


 小石ひとつない、まっすぐな道だ。そこには僕の影すらない。生暖かい空気と陽炎に支配されたその道の中、僕は1人で立っている。道の両側は青々しい草原が広がっている。地平線が見えるかのような真っ平らなここは一体何なのだろう。
 指先に何かが触る。気がつくと誰かが僕の手を握っていた。白く、丸みを帯びている手。タコもあかぎれもない柔らかで滑らかな手は、まるで幼い子どものようなのに、大きさは僕とあまり変わらなかった。
 するりと指の絡まりが解け、それに合わせて視線を動かすと、両目を布が覆った。さらりと心地の良い薄布だ。
 そういえば今日は月曜日だったような気がする。確か、学校が始まるなと憂鬱に思ったのだ。でも、それがやけにぼんやりとしか思い出せない。昨日のことなのに、どうしてこんなにも曖昧なのだろう。さっき見た陽炎と肌で感じる生暖かい空気はこんなにも明確に分かるというのに。
 薄布が外される。瞬きを繰り返し、目が慣れたところでさっきの誰かを見た。それは穏やかな顔をした、誰かだった。誰なのだろう。きみは一体、誰なのだろう。
「おやすみ、坊や」
 その顔は、まるで懐かしい母のような。

 目を開く。朝の光がカーテンの隙間から射し込んでいる。上掛け布団代わりのタオルケットが床に落ちていた。壁掛け時計はいつもの時間を指している。顔を洗って朝ごはんを食べようと思った。いつもの様に、いつもの習慣をしようと思った。けれど、それよりも先ほどの光景が脳裏にこびりついていた。
 そういえば故郷にどれだけ帰っていないのか。母と父と兄弟は元気なのだろうか。簡単には会えない、遠くの故郷にいる家族。
(ならば、もう一度、あの光景を)
 気軽に会えないから、せめて、夢の中で。



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