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 2016.01.25.Mon:01:01

第8回フリーワンライ企画様へ提出作品
お題:七夕、銀漢の涙
カテゴリ:オリジナルNL
題名:そして彼女は白を纏う


 それはとある日の朝方のことでした。あなたは一通の便りを送りつけてきたのです。わたくしは不思議に思いながら、日付に期待をするのです。気軽には会えぬあなたが、今日はさながら織姫と彦星のように会ってくださるのではないかと思ってしまったのです。
 しかし手紙にはそんなことは一切書いてございませんでした。

 あなたが寄越した去年の封筒をちらつかせ、あなたが気まずそうにすることに笑います。皮肉にも、わたしとあなたが喫茶店で出会した今日は手紙をわたくしが受け取ったその日なのですから。
「悪かったとは思っているよ」
「そりゃそう思ってくださらないと、わたくしの立つ瀬がありませんわ」
 本当にすまなかったと繰り返すあなたに、もういいじゃないですかと笑うと、あなたはやっぱり気まずそうにするのです。嗚呼、何とおかしなことか。
「もうあなたとは恋人じゃアないでしょう」
「そりゃそうだけど」
「それともなにかしら。ヨリを戻したいとでも言いたいの」
「そんなことはない。俺たちはお互いに納得して別れたじゃアないか」
「それならもう何もありませんことよ。サッサとお帰り。門限が近いのでしょう」
「あの頃のような門限など無いよ。キミだって知っているだろう」
「あらあら、そんなこと教えてくださいましたっけねエ」
 苦虫を噛んだようなあなたに、わたくしは笑みが溢れます。だってねエあなた。わたくしはもう銀漢の涙に濡れるやわい娘子では無いのですよ。
「お噂はかねがね聞いていましてよ。良い奥様じゃアないの」
「あのねキミ」
「わたくしもねエ、そろそろ籍を入れようと思いますのよ。彼は私よりひとつ年上の、とても人柄の良い人でねエ」
 からんころんと戸が開き、お前と愛する人が声をかけてくださいます。わたくしは心底嬉しく思いながら、今行きますよと立ち上がりました。ちょっとと引き止めるあなたにニコリと笑みを置いて、さっさと代金を払って愛する人の元へと近寄るのです。そこで、愛する人にあなたが誰かと問いかけられるものですから、わたくしはかつての友人ですわと微笑むのです。



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