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 2016.01.25.Mon:01:00

お題:寄り道、白いワンピース
オリジナル


 小さな集団で歩いたあの道を、今はひとりで歩いている。苔むした古い石の階段、堤防とそこから見た川のきらめく水の流れ。そこにかかる橋は風が強くて、雨の日は傘をさしたら飛べそうだった。アスファルトの隙間からたくさんの草花が伸びた坂道、それは急な傾斜だから、自転車で下りる時は少しだけ怖かった。坂を下りたらそこには小学校がある。私の母校で、思い出がちらちらと脳裏を掠めた。

 大雨の日、大きな水溜りを眺めながらお迎えを待った。その時に無理に帰ろうとした友達がびしょ濡れになって小学校へ戻ってきていた。さっきの橋の強風がとても怖かったそうだ。
 毎日通った図書室は、様々な児童書が置いてあった。私はそこでお気に入りを幾つも見つけては、何度も読み返した。いつかたくさんの本をコレクションしたいと、切に願った。私の家は絵本がたくさんあったけれど、それは少しだけ幼過ぎると勘違いしていたのだ。
 屋上の扉の前。昼休みにたまに訪れたそこは私の秘密の場所。その時間はいつも人がいなくて、ひとりで段差に座って日光を避けながら本を読んだ。あの時に読んだ本はなんだったっけ。一度だけ、扉の鍵が空いているときがあったけれど、怖くてその扉を開けなかった。私は臆病だったのだ。

 風が吹いて、私の白いワンピースが揺れる。近くに駄菓子屋があるはずだから、そこで冷たいものを買おう。アイスがあればそれを買おう。ああ、帽子を家に忘れてしまった。頭が熱い。
 あの時の小さな集団は、今は何をしているのだろう。大きくなってしまった私と同じように、みんなも大きくなっているのだろう。今はもう誰とも連絡を取っていないから、何も分からないのだけれど。
 白い肌にじりじりと日の光があたる。もう、そんな季節なのだ。日の光が痛くて、少しだけ現実感が押し寄せた。現実は何もかもが変わってゆく。あの小学校は廃校になるそうだ。駄菓子屋もあるかどうかわからない。人は入れ替わり、見知らぬ人が近所に住むのだろう。それがどうしようもなく、虚しかった。

 空は青い。もうそろそろ入道雲が現れるだろう。台風と、蝉と、花火の季節がやって来る。一つとて同じは無い、一生で一回だけの夏がやって来る。

 アイスを買ったらあの小学校に寄ろうか。お迎えを待った玄関先でそれを食べて、図書室で児童書を読もう。そして屋上の扉の前の段差であの頃を思い出そう。
 最後の、夏だから。



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